[番外編4]「もっともっと」をやめよう その1 名郷先生

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レジデントノートインタビューコーナー『あの先生に会いたい!』では,さまざまなフィールドでご活躍中の先生に,医師として歩んでこられた道のりや,現在,そして将来のこと,さらに私生活とのバランスの取り方などについて語っていただきます.また番外編では,本誌に収まりきらなかった内容をホームページ限定で紹介していきます.

番外編6 「もっともっと」をやめよう その3

小林先生(以下敬称略):上を目指さない医療…….

名郷先生(以下敬称略):だから,それが,そういうのが「上」というように,やっぱり染みついているわけよ.

小林:ああ,確かに.そうですね.

名郷:だから,「下へ行っちゃいけない」とか「上へ行こう」とか,「上へ行くために」みたいなことをもうやめようと.だから,最近は,病院で外来やっていても,訳がわからないもん.「とにかくMRI撮ってください」とかさ.

小林:ああ,ありますね.

名郷:「今,体の調子どう?」「いや,別に今は何ともないけど」「何ともないんだったら,撮らなくてもいいと思うけど」「いや,1回ちょっと撮ってみてください.何かあるかもしれませんから」「いや,でも,症状ないでしょう?」.

小林:いますね,そういう患者さん.

名郷:それ,お互いおいしいから,撮っちゃうもんね.病院は儲かるし,患者は満足するし.常に7割引だし.でも,やっぱりそういうのに対する違和感が日々募って,私はもう無理だなあという感じがちょっとある.

小林:じゃあ,先生がそれを変えようと思うと,医療制度自体を変える方向になるんですかね.

名郷:それは,医療制度では変わらないと思う.やっぱリ1回,資本主義をやめてみようじゃないかとか思うね.それは難しいよね.

小林:もう浸透したものですからね.

名郷:そういう訳のわからない話を聞いて,どう思う?

小林:それは日々感じることですが,流れていくことではあるんですね,僕からすると.でもやっぱりいつかはそれで破綻するときが来るとは思うんです.

名郷:いや,もう破綻してると思うね.

小林:ただ,世間の流れとしては,そうしないことは,あまり良しとされない流れですよね.だから,難しいですね….それでは,先生が地域医療で行かれていたところは,ある意味医療制度が成り立っていたということですか?

名郷:不足するなかで,リソースがないから,かえってうまい具合にいっていたと.すぐ紹介できないとか,すぐ駆けつけられない,すぐ入院できないとか,バリアのところで,ちょっと考える時間があるとたぶんできるんだよ.「どうする?」となったら,「確かにね,もうそろそろだしね」みたいになると思う.

小林:都市部では救急車は6分で来ますからね.そうすると地域医療は最先端のことをやっていたということでしょうか.

名郷:そうだな.最先端というか,やっぱりちょっと違う路線だったと思う.やってるフレームが.今の医療の延長上になかったな.「初期研修で病棟で一生懸命やる」とか「早くみつけて,早く治して」みたいなこととはフレームが違うという感じがするよね.

今の医療はすごい成功を収めたし,使えるところがいっぱいあるのだけど,やっぱりオールマイティーではない.それが王道にならなければ,今の医療はうまく使えると思うんだよ.王道になってしまっているがために,「もっともっともっと」というところでうまくいかなくなっている.だから,今の技術は残しといた方が絶対にいいよ.ただ,王道としては「そろそろだな…」みたいなのがあって,それに加えて「でも,これ使えるから,ちょっと使っとく?」みたいなことがあれば,それはかなり良いと思うんだけどね.どう思う?

小林:はい,大分,頭が柔らかくなってきました.今まで聞いたことがない意見だったものですから.

Profile

名郷先生
名郷直樹(Naoki Nago)
東京北社会保険病院臨床研修センター
愛知県の作手村診療所に計12年間勤務した後,へき地医療専門医育成を目標に地域医療振興協会の研修病院で教育を中心とした仕事をしている.

小林先生
小林大輝(Daiki Kobayashi)
聖路加国際病院内科専修医
一見『お堅い先生』かと思いきや,EBM,思想,笑い,どれをとっても超一流を感じました.未収録部分はHPで必見!!

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