[巻頭インタビュー]あの先生に会いたい!番外編1 手技を学ぶことの重要性(今先生)

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レジデントノートインタビューコーナー『あの先生に会いたい!』では,さまざまなフィールドでご活躍中の先生に,医師として歩んでこられた道のりや,現在,そして将来のこと,さらに私生活とのバランスの取り方などについて語っていただきます.また番外編では,本誌に収まりきらなかった内容をホームページ限定で紹介していきます.

番外編2 医療における工夫:その1~工夫は良い評価へとつながる

高田先生(以下敬称略):地域で診療されていたときの,「地域医療ならでは」の工夫をお教えいただけますか.

今先生(以下敬称略):物がないんですよ.例えば,こういう大きな病院にいると人工呼吸器や,透析の機械など,なんでもありますね.「気管チューブ」と言うと「サイズは?」なんてね,やはり小さな病院とか診療所へ行くとこういったものがないのですよね.そのときにどうやって工夫するか,工夫しなければ転送するだけで終わりですね.工夫すれば,ものがなくてもいろいろできると思うのです.例えば,本州最北端の大間病院へ行ったときは,心不全でゼコゼコの喘鳴の患者さんがいるわけです.すぐにラシックスを使って利尿を図って,呼吸を良くしようと思うのですが,それが効果ない人もいるわけです.その場合は大きな病院だと,今では持続血液ろ過透析(CHDF)というのでゆっくり除水をしながら治療するわけですが,そのために透析の機械がないといけないし,透析用の点滴やカテーテルも必要になります.それがないときどうするのか,ないときは全部患者を転送するのか…ということです.

 患者さんは,へき地とか,地方・地域にいると,送ろうとしても嫌だと言う人もいるわけですね.「ここを離れるくらいだったら死んだ方がましだ!」.本当はそう思ってないのだけども,つい言ってしまう.ご家族も,おばあさんがそう言うのだったら,そうした方が良いという感じですね.なにか「本当にそうなんですか? だってちょっとやれば治るんですよ? なんでそんなことになっちゃうの?」という,そういう状況で,もし自分がそのことを解決できたら,これは,この家族にとって,とても幸せなことだなと思いませんか.

 例えば,今いった心不全の透析のことも,当時は大腿動脈に普通に血管留置針を刺して,大腿静脈に通常の血管留置針を刺して,その間に透析のフィルターを1個置いて動脈の圧で回す,ということができます.そうして動脈から静脈に自然に流れるようにして,その間透析のフィルターから水がタチタチと外に漏れる,それが除水.それで心不全を治す.血圧が低いときはタチタチ出るのが少なくて,血圧が戻ってきたらタチタチ出るスピードが多くなる.ですから,患者さんの血圧とか循環の元気度によって,負担のない程度の除水をすることができる.そういう理にかなった血液ろ過,もしくは除水を何人かやりましたね.それで,何人もの人が息を吹き返しました.そういうことです.

 ただし,なくてならない物も,もちろんあります.例えば,ペースメーカーは代替がありませんので,それは大間病院のときは用意しました.ペースメーカーがあっても,入れることができるか,できないかで,大きな違いです.入れることができる手技をしっかりとある程度身につけておいて,あとペースメーカーさえあればできるようになっておく.そうやって,ない物は工夫して,あればそれをしっかり利用するということで,ずいぶんそういう循環器系の危機的な患者さんにはがんばったつもりです.心臓カテーテル検査はできないのですが,静脈投与のt-PAを使うことによって,ほぼ同等の効果が得られますので,そういうものを使って危機的状況を切り抜けたりしましたね.

 がんばると患者さんが自分の元に集まってきたり,もしくは他院に行かない患者さんがどんどん増えてきて,いわゆる住民に信頼される病院になるのです.住民に信頼される病院になると,患者数が増えます.それから,難しい治療を始めると保険点数が上がるので病院も収益が上がります.何も買わなくて収益が上がる.今いるスタッフで収益が上がる.病院の人は喜ぶ,事務が喜ぶ,看護師の待遇も良くなる,町役場も喜ぶ….そうすると,「今度来た今先生って良い先生だな」と評判が良くなります.ちょっとしたところなんですよね.ちょっとしたところで良い評価を受けられる.それが,そういう工夫なのですね.

Profile

今先生
今 明秀(Akihide Kon)
八戸市立市民病院 救命救急センター
新しい日本型の救急医を育てたい.
東北救急医学会を2009年7月4日八戸市で開催します.みんな来てね.

高田先生
高田忠明(Tadaaki Takada)
八戸市立市民病院 救命救急センター
今先生の発想と決断の速さに驚きの連続です.すべてを吸収し,前進していきたいです.

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