[巻頭インタビュー]あの先生に会いたい!vol.3
新しい医学体系とシステムを構築する潤|内側・現場からの改革

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本コーナーでは,さまざまなフィールドでご活躍中の先生に,医師として歩んでこられた道のりや,現在,そして将来のこと,などについて語っていただきます.2010年1月号では済生会福岡総合病院 臨床教育部の田中 和豊先生にご登場いただき,東京都済生会中央病院 内科後期研修医の渡邉 崇先生にインタビュアーを務めていただきました.

普通にやれば最低限の実力がつくプログラムを作りたい

田中先生

田中和豊

済生会福岡総合病院 臨床教育部

渡邉先生(以下敬称略):今実際に研修している初期研修医や後期研修医に,先生から見ての思いは何かありますか.

田中先生(以下敬称略):医師になるからには,基本的な技能は身につけてほしいと思います.ですので,いわゆる初期研修の目標ぐらいはどんな専門医になるにしても身につけてほしいと思います.

渡邉:いわゆる厚生労働省の到達目標?

田中:新医師臨床研修制度になりましたが,まだまだそれが達成されてないと感じています.日本では無駄な努力が多いです.まず,大学の卒前教育が試験勉強ばかりで,国家試験も知識を問う問題ばかりです.臨床研修で下働きばかりして,直接医者の能力とは関係ない肉体労働や雑務が多いです.肝心の医者の診断能力,検査値を読む能力や,治療能力というものがなかなか身につかない環境です.
 アメリカの場合はもちろん到達目標もありますが,非常に環境が整っていて,どんな人でも普通にやっていれば最低限の実力がつくプログラムになっています.アメリカに行ったとき,それが無性に悔しかったです.アメリカは雑務が少ないし,それなりに教育環境もあるし,カンファレンスにも出席できます.そういうシステム自体があるのが強いんです.だから今,自分は卒後教育でそういうシステムを作りたいと思っています.
 それで1つは,本を書いています.診断学と検査学と治療学の1つの流れを問題解説型に書いた本を完成させたいです.大学で教えていることは疾患学.けれども,実際患者を診るのは症候学です.インフルエンザかどうかわからないし,腹痛といっても疾患が何かわからない.だから,医学の体系を疾患学という体系ではなくて,症候学に変えないといけないと思います.


渡邉先生

インタビュアー:渡邉 崇

東京都済生会中央病院内科後期研修医

渡邉:こういう症候でこういうときに何を考えるか,現場に出る前にはトレーニングされないんですよね.

田中:アメリカでは徹底的にトレーニングされます.内因性も外因性も含めてそういう医学体系を作らなくてはいけないと思います.診断学,検査学,治療学という順序になって,一つのリング,学問体系みたいなものをまず作りたいです.
 2つめはシステムを作ること.卒後普通にやっていれば,誰もがどこの救急当直にバイトに行っても,最低限の疾患は診られるようなシステムを作りたいのです.見逃してはいけない病気は見逃さないシステムができないと,救急車たらい回しや,医療過誤,誤診によるミスは根本的にはなくならないと思います.
 それで今の病院でやっているのは,研修医が少しずつ段階的に発展できるように,軽症から重症に向けて勉強できる研修システムを作ることです.「福岡モデル」と呼んでいますが,自分の病院に来れば,3年間で誰でも救急の患者を診られるし,最低限のことができるようになるプログラムを作りたいのです.そうすれば,基本的な臨床技能を身につけた医師が増産できるはずです.


このほかに2010年1月号本誌では,【田中先生の日米、外科内科にわたる研修】【勉強への姿勢】【「腹痛初期診療マニュアル」に込めた思い】【研修医へのメッセージ】等を収録!田中先生の人物像・医師像に迫っていきます!つづきは本誌で!また,今後,本誌に収まりきらなかった内容をホームページ限定で紹介していきます.ご期待ください!

Profile

田中先生
田中 和豊(Kazutoyo Tanaka)
済生会福岡総合病院 臨床教育部
総合診療部を一緒に創っていきたい医師を募集しています.興味のある方は是非見学に来てください.

渡邉先生
渡邉 崇(Takashi Watanabe)
東京都済生会中央病院 内科 後期研修医
ジェネラリストであり続けることに勇気をもらった1日でした.