[巻頭インタビュー]あの先生に会いたい!番外編2 臨床力をのばす勉強法(山中先生)

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本コーナーでは,さまざまなフィールドでご活躍中の先生に,医師として歩んでこられた道のりや,現在,そして将来のこと,などについて語っていただきます.2012年4月号では藤田保健衛生大学 総合救急内科の山中克郎先生にご登場いただき,名古屋第一赤十字病院 神経内科 後期研修医の安藤孝志先生にインタビュアーを務めていただきました.

番外編2 臨床力をのばす勉強法

安藤先生(以下敬称略):ロールモデルから学ぶ以外に臨床力をのばす勉強法は何かありますか.

山中先生(以下敬称略):私が心がけているのは臨床をしっかりやることです.要するに,患者さんをたくさん診ることが大事だと思います.でも,患者さんをたくさん診れば診るほど臨床能力がアップするかというと,そうではありません.いいかげんに診ていたら,何年,医者をやっても全く臨床能力はアップしません.医学にはコツがあり,勉強には要領があると思います.その要領の1つは,キーワードに着目することだと思います.

安藤:キーワードとは何ですか.

山中:この症状があればこの病気だ,というキーワードがあります.例えば,「突然の発熱,悪寒戦慄」といったら,まず敗血症を考えますよね.でも,なかなかその思考が学生にはない.医学部の教育では,このような臨床に大切なキーワードを教えていないと思います.だから,まず,このようなキーワードからの病気の診断,連想を強化することが大事だと思います.

 そして,西伊豆病院の仲田和正先生がよくおっしゃっている「怒濤の反復」です.知識はどんどん忘れてしまいますので何回もくり返し学ぶことによって記憶を定着させます.そのためには患者さんをたくさん診て,くり返し学習することが必要だと思います.内科では鋭い観察力も必要です.しかし,観察力だけでは駄目なんです.例えば,心内膜炎のときのオスラー結節.「有痛性の結節が心内膜炎の時に手足にできる」という知識がないとそれを探す気にはなりません.だから,知識のバックグラウンドに基づいた,細かな鋭い観察力が必要だと思います.そして,推理力です.どのように推理して診断に結びつけるかという推理力が必要です.

 これらを鍛えるためにはやはり経験が大事ですね.患者さんをたくさん診て,経験することによって知識はどんどん深まって定着します.

安藤:何度も経験して,さらに知識を自分のなかに定着させていくことが大事なのですね.

山中:私は人に勉強法を聞くのが好きで,人が勧める本をまず買ってみます.買っても読んでいない本はたくさんあるのですが,なかにはすごくいい本があるので,それを徹底的に読みます.私が大好きなのは,「MKSAP」という本です.これはアメリカ内科学会が3年に1度出している内科書で,アメリカでは「ミックサップ」と呼ぶようです.「Medical Knowledge Self-assessment Program」の略です.前半部分が教科書的な内容で,後半部分が臨床問題になっています.これを,3年に1度は徹底して読むんです.

安藤:(実際に本を見て)たくさん書き込まれていますね.こうやって内科全般の知識を得られているのですね.

山中:この「MKSAP」のさらによいところは,オーディオ版もあるんです.例えばneurologyの場合,神経内科専門医と総合診療医が2人でさまざまな神経疾患について講義をするのです.それを聞いているだけで英語の勉強になるし,医学知識も深まります.

安藤:ありがとうございます.私も,先生に伺ったことで新しい勉強法を知ることができました.

Profile

山中先生
山中 克郎(Katsuo Yamanaka)
藤田保健衛生大学 総合救急内科
私には夢があります.病歴と基本的身体所見を重視する心優しい医師をたくさん育てることです.診断したければ患者さんの訴えによく耳を傾けることです.言葉にならない心の声を微笑みをもって受けとめる優しさはどんな治療薬にも勝るのです.

安藤先生
安藤 孝志(Takashi Ando)
名古屋第一赤十字病院 神経内科 後期研修医
山中先生の穏やかな語り口に引き込まれました.