総合診療はおもしろい!

病棟研修で磨く専門性
児玉崇志(地域医療振興協会 「地域医療のススメ」専攻医4年目)

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現行の家庭医療後期研修プログラムでは,診療所・小病院研修と,病棟研修を含む総合診療部門研修が必須となる.合計18カ月,それぞれ6カ月以上が課されている1).本稿では総合診療部門での病棟研修の目的と得られる能力を紹介する.

病棟での総合診療研修の3つの目的

総合診療医は頻度の高い疾患や,複数の臓器にまたがる疾患を抱える高齢者診療の担い手として期待されている.肺炎,脳梗塞,心不全などの診断,治療を退院まで完結することで,専門医には専門性の高い疾患や手技に集中してもらえる.common disease やmulti-problemな高齢者の入院管理について知識を深めることは最も重要である.パーキンソン病で誤嚥性肺炎になった患者の薬剤や食形態・環境の調整などはよい例である.

東京北医療センターでの病棟研修(専攻医1年目).筆者は左から3番目.チームは屋根瓦式で,同時に研修医教育にも携わった.

2つ目は病院のハブとして機能することである.中核病院では各科専門医,看護師,リハビリなどさまざまな院内スタッフだけでなく,ケアマネージャー,施設や在宅医,転院先病院などさまざまな部署との連携が必須である.どこまで自分たちで診て,どのタイミングで専門家の意見を聞けばいいか,病棟看護師の視点,退院時カンファなど,病院で実感することでしか学べないことは多い.例えば,妻の介護力低下がきっかけとなり,褥瘡感染で入院に至った患者が安全に退院後の生活ができるよう調整することは総合診療医の腕の見せどころである.

3つ目は病院のリソースを知り,何が起こるか想像でき,患者・家族に説明できることである.これは2つ目と似ているようだが,小規模の病院や診療所からの視点になる.変形性膝関節症患者での人工関節置換術の術前後の痛みの変化や,リハビリの重要性は入院中の患者を診ていないとわからない.

病棟研修中は,内科専門医研修中の同世代に劣等感を感じることがあるかもしれない.研修も後半に差し掛かると,カテーテルや内視鏡などの専門手技を身につけたり,専門領域についての知識を深めて私たちからコンサルトを受け,自立した診療ができているように見えてくる.私自身も含め「かっこいい! 自分も専門臓器をもって知識・技能を高めるべきでは?」と感じてくる家庭医療専攻医も多い.

一方で臓器に特化していないぶん,目では見えにくいものの,実は多くの家庭医療専攻医も上記のような経験を経て,専門性の高い能力を身につけており,やりがいを感じる瞬間はたくさんある.退院の難しい患者を,多職種の意見を集約しつつ本人・家族が納得できる方向付けができたとき,専門医紹介のタイミングが患者・紹介医にとって適切で,紹介先から笑顔で戻って来るときなどである.

こうした調整能力で患者さんの幸せに貢献することに共感できる仲間を育てていくことが,私たち若手総合診療医の役割と考えている.

参考文献

  1. 改訂家庭医療後期研修プログラムの認定に関する細則 2017年
はじめから終わりまで,それぞれの経過に合った輸液ができる!

レジデントノート増刊 Vol.26 No.2
経過を追って考える 輸液の処方・調整のコツ
いつやめる?どう調整する?チェックするポイントとタイミングを押さえて、「何となく」の処方を見直そう

寺下真帆/編