2017年9月号特集特別座談会企画
徳デントノー場にようこそ
〜さまざまな年次から考えるChoosing Wisely のリアル

レジデントノート2017年9月号と,徳田安春先生(臨床研修プロジェクト 群星沖縄臨床研修センター長)と荘子万能さん(大阪医科大学 医学部医学科)主催のPodcast「徳田闘魂道場にようこそ」がコラボし,“Choosing Wisely”をテーマに座談会が開催されました.後半はWEB限定で公開いたします!

荘子万能 さん
徳田安春 先生
栗原史帆 先生
鷺森美希 先生
野木一孝 先生
北 和也 先生

所属はインタビュー当時のものです.

後半(WEB限定公開分)

3 研修医からのChoosing Wisely〜対話の出発点に〜

荘子 栗原先生は,これまでの研修生活で,Choosing Wiselyに関係しているな,と思われたケースはありますか?

栗原 今日の話を聞くまではChoosing Wiselyって遠い世界の話だと思っていましたが,例えば,抗がん剤治療中の患者さんがお米じゃなくてそうめんだったら食べられるのではないかとか考えることも患者さんのことを思って選択するという意味で,Choosing Wiselyにつながるのかなと思いました.

荘子 Choosing Wiselyは高尚なものではなく,身近で日々実践できるものと思われたのですね.野木先生,いかがですか.

野木 研修医の先生でも実践できることはたくさんあると思います.医者のなかで患者さんに一番近いのは研修医の先生だと思いますので,患者さんも上級医には言わないけど研修医の先生には言う,という場合が少なくありません.しかも意外とそのようなときに大事なことをお話されているんですよ.僕も上級医になるにつれて,患者さんからしたら話しにくい対象になっているのではないかと心に留めながら,少しでも患者さんが話しやすいような雰囲気をつくろうと日々取り組んでいます.

荘子 北先生,いかがですか.

  Choosing Wiselyって高尚なことと考え過ぎると失敗になりかねませんよね.みんながやっていない複雑なことを先駆け的に行っているという感覚でChoosing Wiselyに取り組んでしまうと,患者さんにとってよくないことにつながりかねないと思いました.

荘子 まさに Choosing Wiselyを自分事にすることが大事だと思います.Choosing Wisely CanadaにSTARSという医学生と若手医師の団体があり,自分たちにでもできるChoosing Wiselyのリストつくっています.例えば,「単に臨床経験を得たいという理由だけで,検査,処置などをオーダーしない」「患者さんの臨床経過を変えないような臨床的な介入は避けよう」「介入は,より侵襲度の低いものを検討することからはじめましょう」といったリストです.このリストは,自分たちの今までの行動を振り返って,これはちょっとやり過ぎだったなとか,こうしたらいいのではないかというようなことをまとめて作成されました.日本でも,Choosing Wisely Japan Student Committeeという組織を立ち上げ,自分たちのリストを作成中です.例えば,「情報を鵜呑みにするのではなく,批判的に吟味しましょう」などです.鷺森先生,いかがですか?

鷺森 われわれ医師の知識は,自己満足のためではなくて患者さんのためにあるものだと思うので,患者さんや患者さんの家族と対話して,その患者さんのためにどこまでエビデンスを適応できるかなどを考えることが大切だと思います.われわれ研修医は患者さんに近い立場にあって,患者さんの人となりや,患者さんの家族が患者さんのことをどう思っているかなどを比較的身近に聞くことができると思うので,それをうまく診療に結びつけることができたらいいのかなと思います.

荘子 北先生,いかがですか.

  素晴らしいと思います.医学生,研修医は,患者さんと上級医の橋渡しという重要な役割を担うことができると思います.ところで,仮定の話なのですが,例えば自分が明らかにいいと思っていることと真逆のことを上級医が推し進めている状況に出会ったら,どうしたらいいと思いますか?また,こういう上級医がいいなというのはありますか?

鷺森 いろいろな上級医につかせてもらいましたが,「この患者さんに対してはどうする?」とまず私の意見を聞いてくれる先生についたときは充実していましたね.その意見に対して,「本当にそれでいいの?」というようにフィードバックしてくれることが対話ですよね.自分と全く違うことを推し進めている先生についたときは,「でも私はこう思うんですけどね」とか少し言いながらも,正直どうしていいかわからなくなってうまくやっていけないと思います.

  そのようなとき,研修医の先生はどうふるまったらいいのかなとよく考えます.学生時代は,熱心に勉強会などに出て勉強したことを楽しそうにSNSで発信していたような人でも研修医になると何も投稿しなくなり,いろいろ悩みながら悪戦苦闘している印象です.理想と現実のギャップで辛い思いをしているのではないかなと心配になることがあります.実際の医療を目の前にして,研修医の先生はどんな思いを抱えているのでしょうか.むしろ学生時代は,そこまで勉強していないくらいの人の方がすんなり研修しているようにも感じますね.

栗原 私は学生時代あまり勉強してこなかったので,すごくすんなり研修している側の研修医なのですが(笑).鷺森先生が言うように,「あなただったらどうする?」とまず聞いてくださる先生といると,勉強してきた研修医にとっては自分の勉強してきたことを改めて発揮する機会がもらえますし,逆に勉強してこなかった研修医にとっても,上級医の言うことを咀嚼して自分なりに考える癖をつけるきっかけにできるのではないかと思います.ゆくゆく自分が経験を積んだときに,Choosing Wiselyの実践につながっていくと思うので,そのような上級医がいてくれるとすごくありがたいです.

荘子 Choosing Wiselyを実践するためには,自分が変わっていけるかどうかが大切なのではないかと思いました.例えば,自分の知識や経験と上級医が言っていることとの違い,理想と現実との違い,自分がしたいことと患者さんのニーズとの違いなど,さまざまな違いがあるなかで自分が変わっていけるかどうかです.自分の方が絶対的に正しいんだって意固地になって推し進める,というのではよくないですよね.野木先生,いかがですか.

野木 救急外来を研修医の先生と担当することが多くて,なるべく「どうする?」とか「どう考えてる?」と聞くようにしています.ただ,勉強をたくさんしている人はどんどん「こうしたいです,こうしたいです」と積極的に言ってくれるのですが,そうでもない人には,聞いてもはっきりと意見を述べてくれるわけではないので,それでも問いかけ続けるのは,いじめているみたいであまりよくないのかなと思っていました.ですが,考える癖をつけてもらう意味で問いかけ続けるのがいいことだと,栗原先生に言ってもらえてホッとしました.

荘子 徳田先生,いかがですか.

徳田 明らかに患者さんに害を及ぼす行為やそれを見過ごすことは,プロフェッショナリズムという観点から見ても問題ですよね.ただ,臨床現場には,不確実な部分,グレーゾーンも多いのです.ウィリアム・オスラー先生が100年以上前に「謙遜の徳」の大切さを説かれたように,われわれは謙虚にならないといけません.今までいい治療だと思っていたことが全く否定されることもよくありますよね.ですから,自分たちが今やってることが本当に正しいかどうかは誰もがわからないのだと認識しながら取り組む姿勢をもつことが大事ではないかと思います.

荘子 北先生,聞かれていかがですか.

  そうですね.常識やエビデンスは覆りうるものだという認識は重要だと思います.ただ,今日はあえてさらに突っ込んでみたいと思いますが(笑),明らかに患者さんのためにならないことを上級医がしているとき,研修医の先生はどうふるまったらいいのでしょうか.エビデンスレベルの話ではなく,明らかに誰の目から見ても心不全の患者さんに喘鳴が聴こえるからSABA(短時間作用型吸入β2刺激薬)やテオフィリンの点滴をするとか,明らかなかぜに抗菌薬を使用するとか,そのようなシチュエーションに悩まされてる先生も多いように思います.薬剤師さんにもありますよね.ポリファーマシー問題や薬のことをたくさん勉強している薬剤師さんが,「この薬はこの人に使ってよいのでしょうか」と医師に疑義照会したら,「うるさい,いいから出しとけ」と言われたなんて話もよく耳にします.そんなことをされるとプライドがずたぼろになってしまいますよね.そして気づけば疑義照会も重大なことも何もかも発言できなくなってしまう薬剤師さんは少なくないと思います.こういった話が研修医の先生にもよくあるのです.このような状況に立たされている研修医に対し,どのようなアドバイスができるでしょうか.

徳田 「JAMA」という医学雑誌に,トロント大学のウェンディ・レビンソン先生がプロフェッショナリズムについてのケーススタディを連載していて,まさにそのようなシーンで研修医がどう行動したらいいのかについて優しいアドバイスがありますよ.プロフェッショナリズムは,本来教えることができるスキルなのですが,日本では卒前でも卒後でも正式なカリキュラムとして教えられていませんね.その代わり,大体先輩の真似をすることになります.これをhidden curriculmといいます.

荘子 ありがとうございます.北先生,今日の座談会を振り返って,いかがですか?

  今日はありがとうございました.医師がよりよい医療を実践するには,患者さん,その家族,周囲の医師やほかの医療従事者,あらゆる他者との対話・コミュニケーションが大切になります.Choosing Wiselyは対話のためのツールとして利用すれば素晴らしいと思いますが,実際には「かくあるべし」と“印籠”のような使い方をして,逆にコミュニケーションに支障をきたしてしまうという本末転倒なケースもあると思います.また一生懸命勉強している研修医が,実際の医療を目の前に,モヤモヤした毎日を過ごしているというのも目にします.今回の座談会は,現場で理想と現実のギャップで悩んでいたり,やる気を失っていたり,辛い思いをしている研修医の先生に何かヒントを提供できないかと思い,いろいろな立場の方々と話してみようと企画しました.これを聞いて,研修医の先生のやる気が出て,明日から頑張ろうと思ってもらえたら嬉しいです.あらためて,今日はありがとうございました.

荘子 本当に医学生も含め,いろいろなステージにいる方々が,そのときにはそのときなりのそのときだからできることがあるということを,今回学べたことが一番の収穫かなと思います.今日は本当に,ありがとうございました.

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