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トップページ > 本誌のご案内 > 2007年1-2月号 > 科学する物語・空想する科学【瀬名秀明】
最新号(12月20日発行)
2007年1-2月号
(Vol.7 No.1)
定価 2,625円(税込)
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科学する物語・空想する科学
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科学する物語・空想する科学

瀬名秀明

第1回 万能細胞に「自我」はいらない

【2022年、仙台】

ベランダに出ようと誘ってきたのは史華のほうで、鮎美は少し戸惑った。飛び級で進んできた史華とは、同じ研究室なのにこれまでほとんど話したことがなかったからだ。

火薬の爆音が響き、眼前の夜空に花火の玉が大きく開いた。研究室のメンバーは隣のベランダに集まっているが、こちらはふたりだけだ。鮎美たちが配属になった当初、もう21世紀生まれが来たかと教員たちが嘆いたことを憶えている。だが鮎美にとっては無口で大柄な史華への違和感のほうが強かった。

青白い光に照らされた史華は、不意にそっと身を屈めて白衣の前を開き胸元を見せた。肩にかけて移植手術の痕があった。

「花火の光で疼くんです」史華は自分の肩胛骨に触れた。「いまここは私であって私じゃない。先輩、この意味がわかりますか?」

★☆★☆★☆

2006年8月、「ドリーが生まれて以来の驚きだ」と呼ばれた研究成果が論文として発表された。京大の山中伸弥教授と高橋和利特任助手による人工万能細胞「iPS細胞(誘導多発性幹細胞)」の樹立である。


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