[Opinion―研究の現場から]

本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第14回 どう捉える?「国民との科学・技術対話」

「実験医学2011年8月号掲載」

2010年6月,『「国民との科学・技術対話」の推進について(基本的取組方針)』(以下,『基本方針』)が総合科学技術会議により公表された.科研費申請書にも反映されたので,すでにご存じという方もいらっしゃるだろう.しかし,まだ中身を把握しきれていない方,耳にするのが今回はじめてだという方も多いのではないだろうか.

そこで本稿では,科学コミュニケーションの実践・研究を行う若手研究者という立場から「国民との科学・技術対話」について述べたい.

そもそも「国民との科学・技術対話」とはいったい何なのだろうか.『基本方針』によると「研究活動の内容や成果を社会・国民に対して分かりやすく説明する,未来への希望を抱かせる心の通った双方向コミュニケーション活動」と定義されているが,これをどのように捉えるのかが難しい.

まず,「分かりやすく説明する」という箇所に注目したい.これは,従来から「科学技術理解増進活動」とよばれてきたものであり,出張授業,シンポジウム,一般公開などがそれに当たるだろう.

次に,「双方向コミュニケーション」という箇所に焦点を当てたい.これは近年注目されてきているキーワードの1つである.「双方向」,つまり,非専門家だけでなく,専門家も同時に受け手となるところがポイントである.この点を踏まえ,筆者らは双方向コミュニケーションを「科学・技術に対する複数の見方が同時に成立しうることを学び合う過程」と捉えている.双方向コミュニケーションは非専門家の視点を考慮したうえでの科学・技術の発展にとって重要な要素の1つとして捉えられており,例えばオーストラリアではイノベーション政策の1つの柱として掲げられ,Inspiring Australia(2010)というレポートが政府から公表されている.日本においても,本年度から実施予定の「第4期科学技術基本計画(策定途上)」(2011年5月現在,東日本大震災の影響で再検討が行われている)に双方向コミュニケーションを重視する記述がみられる.

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「何ができるか,何をすべきか,キャリアを真剣に考えるときの道標」

筆者らは双方向コミュニケーションの場の1つとして「サイエンスカフェ」(気軽な雰囲気における専門家と非専門家との対話の場)の実践・研究を行ってきた.その結果,専門家が「非専門家の意見や経験を聞き,非専門家の科学・技術の見方について学ぶ」ことに困難や戸惑いを感じていることが分かった.その原因を探ることは容易ではないが,「動機」「ベネフィット」「トレーニング」の3つが重要な要素ではないかと考えている.「義務だから実施する」「非専門家から学び取ることは何もない」という姿勢では,なかなか双方向コミュニケーションは成立し難い.また,科学コミュニケーションのトレーニングの機会がないことも一因だろう.アメリカ科学振興協会,英国王立協会,オーストラリア国立大学などがすでに科学者のためのコミュニケーショントレーニングコースを提供しているのに対し,日本では,筆者らが開発を進めているものの,公式に提供されているコースは少ない.

サービス提供者としての立場だけで「国民との科学・技術対話」を行っていくのでは持続的な活動として根付かないだろう.むしろ,専門家にとってもベネフィットを感じられる活動やそのためのトレーニングがなされ,根付いていくことを期待したい.何が専門家にとってベネフィットとして捉えられるのかについては,筆者らの研究課題の1つである.

加納 圭(京都大学物質?細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)・科学コミュニケーショングループ)

※実験医学2011年8月号より転載