[Opinion―研究の現場から]

本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第9回 リーダーシップで広がる若手研究者の可能性

「実験医学2011年3月号掲載」

若手研究者の皆さん,あなたはリーダーシップについて考えたことがあるだろうか.若手研究者が将来どのような道に進むとしても,リーダーシップはさまざまな局面において求められる能力である.

本稿では科学技術分野における次世代のリーダーシップ育成活動を行う団体「STeLA(Science and Technology Leadership Association)」の紹介を通して,若手研究者が習得すべきリーダーシップについて考えたい.STeLAは科学技術に関するさまざまな国際問題に対して,理工系学生に当事者意識をもって取り組んで欲しいとの願いから設立された団体である.そして毎年夏に日・米・ 仏・中の大学(院)生を対象にしたリーダーシップ養成フォーラム(STeLA Leadership Forum:http://web.mit.edu/stela-mit/jp/)を行っている.こうした取り組みによって,広く国際社会に影響力をもつ理工系人材の育成をめざしている.

では,STeLAにおけるリーダーシップとは一体どのようなものなのか.リーダーシップというと,ある1人の選ばれた人間が単独で組織を率いるイメージを想像するかもしれない.しかし,STeLAのスタッフは「STeLAで学ぶリーダーシップは1人が主導するものとは異なります」と強調する.

STeLAではリーダーに必要な能力として,(1)周囲の状況をとらえ,課題に対するチーム全体の理解を促進する力(sensemaking),(2)目標に向かって人を巻き込み,関係付ける力 (relating),(3)説得力のある目標を描く力(visioning),(4)目標を実現させるために常に新しい方法を見出していく力(inventing) の4つをあげている.しかしこれらすべての能力をバランスよく備えている人物はほとんどいない.よってリーダーは自分独自の強みと弱みを正しく理解し,自分の欠点を他のメンバーの力で埋め合わせる.このようにしてリーダーシップを組織全体に分散させるのである.これを 「分散型リーダーシップモデル(distributed leadership model)」(In Praise of the Incomplete Leader:http://www.lifechallengeprogram.org/praise.pdf)という.ただし「分散型」といっても,プロジェクト全体の方針や意思の決定において組織内のコンセンサスを形成しなければならないため,リーダーが責任をもってその役割を担う必要がある.

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若手研究者がこの新たなリーダーシップの概念を取り入れることは,研究室にとって有益であると考える.特に昨今のPI(principal investigator:研究主宰者)は科研費取得などのための事務的な負担が多く,研究室運営において前記4つすべてのリーダーシップを実現するのは非常に困難な状況にある.そこで研究員や学生の各々が得意な分野・能力に応じて役割を分担し,「分散型リーダーシップ」を発揮することで,PI1人がすべて担っていたリーダーシップのほんの一部でも補おうと心がけるようになれば,研究室全体の生産性を上げることにつながるであろう.

研究室生活において互いの弱みを補い,強みを活かしてよりよい研究室運営をめざす.それは将来,今いる研究室というフィールドから一歩踏み出し, 異分野の人たちとのかかわりのなかで組織をまとめ上げる立場になった際にも大いに役立つであろう.本稿をきっかけに,組織における自分なりのリーダーシップの発揮の仕方とともに,未来の日本の科学技術を率いるリーダーとしての活躍の可能性についてぜひ今一度考えてみていただきたい.

取材協力:越田 渓,米田詩織(STeLA-Japan)

久保尚子(生化学若い研究者の会キュベット委員会)

※実験医学2011年3月号より転載