[Opinion―研究の現場から]

本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第10回 女性の活躍する研究室から見える明るい日本

「実験医学2011年4月号掲載」

2010年11月の英誌エコノミストに「未知の領域に踏み込む日本」と題した日本特集が掲載されていた.5年前に「日はまた昇る」と日本経済の再生に明るい見通しを示した以来の本格的な日本の話題だが,内容は対照的だ.急速な少子高齢化に日本経済は耐え得る状況になく,穏やかな衰退状況にあるという.これを食い止めるためには文化的な革命が必要だとあり,その1つとして女性の活用を論じている.

現在は多くの企業が男女共同参画に取り組み,積極的な女性の雇用や,産休や育休制度を充実させている.女性が働き続ける職場環境が整うことで,有能な女性が離職することを防ぐことができる.研究の世界でも男女共同参画は課題の1つだ.特に女性研究者は結婚や出産時期とキャリアアップに大切な時期が重なる傾向にある.さらに,パートナー転勤による物理的問題や,出産育児による時間的制約は「研究」を辞めるきっかけとなりうる.私は育児をしながら研究を続けているが,幸いなことに大学内にある保育園のおかげで,託児所の心配はなくなった.大学内に保育園 (学内保育施設) ができる以前は大変な苦労をした.公立保育園はどこも空きがなく,保育ママも一駅先まで行かなければ預けられず時間と体力の限界を感じた.やっとのことで認証保育園に入れたが,急な子どもの体調変化による呼び出しには,実験に対する理解は全くなかった.大学内保育園は研究や実験に対する理解もあり,落ち着いて研究に向き合うことができる.また,子どもが大学内にいるため安心感もある.

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状況は改善しつつあるが,キャリアアップを目指すには日本の男女共同参画はまだ足りない.これには2つの日本独特の文化が関係していると感じている.

1つは勤務時間だ.日本は他国と比べて残業時間が長いことは有名である.日本人ビジネスマンといえば,ワークホリックのイメージが強い.例えば,私の夫は早くて午後8時,普段は午後9~10時に帰宅する.この帰宅時間についてどう感じるだろうか.日本の友人はその位が普通あるいは早いほうだと言う.海外の友人はワークホリックだと言った.また,日本には会社関係の飲み会も多く,帰宅時間は日をまたぐこともある.女性がキャリアアップを目指すなら,このような勤労時間を対等にこなす必要がある.それでは家庭に費やす時間をほとんど取れず,キャリアアップと家庭のどちらかを選択せざるをえない.日本では,遅くまで仕事をし,たくさんの時間を上司や同僚と共有することが仕事の評価とされる傾向がある.家庭をもった女性はそれができずにキャリアアップの機会を失うことになる.

もう1つは日本人自身の女性像だ.私は留学のため多国籍都市ロンドンで6年間暮らしたが,日本人女性の「よく働き,よく気づく」国民性は,世界に誇れるものであると感じた.女性が家事のすべてをこなし,そのうえ,きめ細かい配慮をすることが当たり前となっている.男女の役割分担意識は変わりつつある.家庭によっては男性でも家事を分担したいと考える人もいるだろう.しかし,日本社会の超過勤務時間を男性がこなすならば,女性は家事を分担せざるをえない.日本で伝統的に継続している長い勤務時間と家事の役割分担は,男女共同参画の根本的な問題になっているように感じる.

男女共同参画と日本経済には相互関係がある.女性が働く環境を整えるには,日本がもつ古い勤務体制を見直す必要があり,男女共同参画の環境が整うことで女性が活躍することができる.これは日本経済の新たな変革にもつながるだろう.

藤田尚子(東京大学大学院新領域先端生命)

※実験医学2011年4月号より転載