[Opinion―研究の現場から]

本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第19回 理系大学院生活で養いたい3つの力

「実験医学2012年1月号掲載」

大学院生にはチャンスがある.自主性が尊重され,「学ぶ」立場を利用できるため,われわれが在学中に身につけられる能力は多い.しかし,大学院進学を社会に出るまでのモラトリアム期間ととらえて明確な目的意識をもたずに漫然と過ごしてしまうと社会に適応できない人材になってしまう可能性がある.本稿では,理系大学院生の研究室生活において,研究以外で重要となりうる心構えについて,在学生(豊田),卒業生(三田村,中原)の視点から述べたい.

第一に,筆者らが重要であると考えるものは,プレゼンテーション能力の向上である.将来,企業へ就職するにせよ,アカデミック分野を志すにせよ,もはや自分を売り込む機会は避けて通れない.例えば,就職活動はその最たる例である.志望企業から内定を勝ち取るためには,自分の強みを的確かつ魅力的に,先方に主張する必要がある.ところが,アピールに使える時間には限りがある.そのため,聞き手が抱える課題や必要とする解決策を把握したうえで,厳選した要点を伝えることが求められるのだ.幸い大学院生は,ゼミや学会発表など人前で話す機会に恵まれている.そのような場を活用し,受け手の立場に合わせて必要な情報を伝える練習をしてみてはいかがだろうか.

第二に,コミュニケーション能力の養成である.大きなプロジェクトに携わる場合,企業に限らず大学でも,チームで仕事を進める機会が圧倒的に多い.このとき,業務遂行能力はもちろん,他人との人間関係構築力が求められる.ところが,必ずしもすべての大学院生がそれを得意としているわけではない.長い研究室生活の結果,固定メンバーへの甘えや変化の少ない環境への慣れが生じ,人間関係に対する取り組みがついつい疎かになっていないだろうか.こういった点に不安を感じる人には,積極的に学外活動に参加してみることを提案したい.異分野の人と交流する難しさや楽しさが得られることだろう.

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第三に,マネジメント能力の修得である.チーム一丸となって1つのゴールをめざすためには,円滑なチーム運営が要求される.そのため,在学中の上級生であれば,例えば後輩指導をリーダーシップやコーチング力を養う機会ととらえ,率先して取り組むとよいだろう.一方,指導教員や上級生の指示を仰ぐことが多い下級生にもできることはある.それはフォロワーシップ,つまり「上司を支える能力」を磨くことである.上司がどれほど優れた指導力を発揮しようとも,すべての状況を把握し一人で対応することはできない.そのため,部下一人ひとりにも自主的な判断や行動が求められる.その際,チームの目標や目的を共有し,全体の進捗・達成状況を把握したうえで,集団にとって建設的となる行動に移すことが重要である.そこで,普段からチームや研究室全体の状況を俯瞰することを心掛け,目的達成のために自分がどう貢献できるかを考えながら行動するとよいだろう.

大学院は,高度な専門能力を有し,社会にとって有益となる人材を輩出するための育成機関でもある.しかし,学生であることを免罪符に「教えてもらおう」という受身の姿勢では,なかなか成長できない.なぜなら,大学院ではある程度学生が主体的に学ぶということを前提にプログラムが組まれているからだ.「あのときもっとこうしておけば…」という後悔をしないためには,5年後,10年後に自分がなりたい姿を想像するとよいだろう.その将来像から今の自分に欠けている要素を明らかにすることで,各々の過程で自分がすべきことや目的が,より明確化されるのだ.貴重な機会を活かすも殺すも自分次第であるということを肝に銘じ,目的意識をもって修士課程・博士課程に臨むことが重要である.

豊田 優,三田村圭祐,中原庸裕(生化学若い研究者の会キュベット委員会)

※実験医学2012年1月号より転載