実験医学 2012年1月号 Vol.30 No.1

がんゲノミクスで挑む次世代のがん研究

新たな融合遺伝子, CNV,エピゲノム異常の発見と分子標的時代の個の医療

  • 間野博行/企画
  • 2011年12月16日発行
  • B5判
  • 145ページ
  • ISBN 978-4-7581-0079-3
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

がんは細胞のゲノム・エピゲノムに後天的変異が蓄積して発症するゲノム・エピゲノム病であり,それら直接的な発がん原因が明らかになれば,原因分子を標的とした有効な治療法が開発されると期待される.ヒトゲノムのサイズは約30億塩基対と膨大であり,これまではがんゲノム・エピゲノムを網羅的に解析することはほぼ不可能であった.しかし次世代シークエンサーという新たな解析技術の登場によりパラダイムシフトが起きつつある.多数のがん検体のゲノム・エピゲノムを網羅的に解析することによりがんの本態解明は大きく加速すると予想され,われわれは今まさにその端緒を開いたところである.

次世代シークエンサー,アレイ解析など最新技術が牽引すがんゲノム研究の最先端.国際プロジェクトがめざすがんの多様な“個性”の解明と,未来のがん予防,診断,そして分子標的治療の可能性に鋭く迫ります!

目次

特集

がんゲノミクスで挑む次世代のがん研究
新たな融合遺伝子, CNV,エピゲノム異常の発見と分子標的時代の個の医療
企画/間野博行
ゲノミクス・エピゲノミクスが開く新しいがん研究【間野博行】
がんは細胞のゲノム・エピゲノムに後天的変異が蓄積して発症するゲノム・エピゲノム病であり,それら直接的な発がん原因が明らかになれば,原因分子を標的とした有効な治療法が開発されると期待される.ヒトゲノムのサイズは約30億塩基対と膨大であり,これまではがんゲノム・エピゲノムを網羅的に解析することはほぼ不可能であった.しかし次世代シークエンサーという新たな解析技術の登場によりパラダイムシフトが起きつつある.多数のがん検体のゲノム・エピゲノムを網羅的に解析することによりがんの本態解明は大きく加速すると予想され,われわれは今まさにその端緒を開いたところである.
シークエンサー革命時代の到来【菅野純夫】
シークエンサー革命へ――がん,特に,臨床で接するヒトのがんのゲノム解析・エピゲノム解析が,急速な勢いで進みはじめている.その詳細は,本特集の他の稿にゆだねることにして,本稿では,その急速な発展をもたらした技術的要素である次世代シークエンサーについて解説してみたい.
がんにおけるゲノムコピー数解析【小川誠司】
がんではさまざまな染色体 (ゲノム) のコピー数異常が認められる.こうしたゲノムコピー数異常のうち,腫瘍特異的にくり返し認められる変化については,しばしば腫瘍の発症にかかわっていると推定され,実際,近年,ゲノムワイドなコピー数解析によって明らかにされた,がん腫に特異的に認められるコピー数異常を示す領域の解析から,新たながんの原因となる遺伝子,あるいは変異遺伝子が同定されている.こうしたがんのゲノムワイドなコピー数異常の解析を可能にしたのは,SNPアレイに代表されるアレイCGH解析技術である.本稿では,がんのゲノムワイドなコピー数解析技術とこれによるがんの新規分子標的の同定について自験例を中心に解説する.
肺がんにみるゲノム変化【渡邊秀生/Matthew Meyerson】
近年の高密度SNPアレイや次世代シークエンスといったゲノム解析技術の進歩により,がんにおける体細胞変異をゲノムスケールで解析できるようになった.われわれのグループは,がんで顕著にみられる体細胞性コピー数変化の同定を目的としたSNPアレイ活用法をこれまでに開発し,現在もTCGA (The Cancer Genome Atlas) やICGC (International Cancer Genome Consortium) を通じて,大規模な複数センターにわたる,非小細胞肺がんの体細胞変異解析の取り組みを牽引し続けている.本稿では体細胞性ゲノム変化の全体図 (landscape) と,前記の取り組みを通じた肺がんにおける新規がん遺伝子・がん抑制遺伝子の発見について議論する.また,肺がんゲノムの莫大なデータと複雑性に対する,われわれのこれまでの分析的な挑戦とその進展についても考察したい.
ゲノム全解読によって明らかになった肝細胞がんゲノム異常【柴田龍弘】
高速シークエンサーの登場によって,がんを含めた疾患ゲノム研究はゲノム解読時代に入った.肝がん全ゲノム解読によって肝がんゲノムの特徴(特徴的な塩基置換パターン,体細胞変異の偏った修復)が明らかとなり,さらに新たなnon-coding RNA変異や融合遺伝子の同定,がん組織内の多様性について解析が進められた.今後多数検体の解析を含めた詳細な分子ネットワーク解析,1細胞レベルでの解読などの解析技術の進歩により,肝発がんの詳細な分子機構の理解と新たな予防・診断・治療法の開発が進むことが期待される.
膵がんの統合的ゲノム解析【油谷浩幸/Linghua Wang】
膵がん症例の大部分は転移病変を伴い,種々の治療にも抵抗性である.また,きわめて間質成分に富んだ組織像を呈し,さらに自己分解しやすいことからゲノム解析が困難な腫瘍である.ゼノグラフトあるいは細胞株はゲノム解析に利用されるのみならず,検出された変異の機能解析や薬剤応答の検定にも有用である.がんゲノム解析においては,エキソーム解析に加えて,SNPアレイによるコピー数解析,RNA-seqによるトランスクリプトームデータとの統合が必要である.後者は染色体転座のみならず,腫瘍特異的なアイソフォームの探索,RNA編集などの解析にも有用である.今回これらの統合的アプローチから,ミスマッチ修復遺伝子MLH1のハプロ不全(haploinsufficiency)によりindel変異が増加することが見出された.
固形腫瘍における染色体転座【間野博行】
わずか10年前までは,染色体転座による発がんは造血器悪性腫瘍に特異的ながん化機構であり,固形腫瘍,特に上皮性腫瘍においてはきわめて稀なイベントであると信じられていた.しかしTMPRSS2-ERGとEML4-ALKの発見によって,固形腫瘍においても染色体転座が重要な発がんメカニズムであると認識され,上皮性腫瘍における新たな融合型がん遺伝子探索が精力的に行われている.次世代シークエンサーはこのような目的に最適な技術の1つといえ,ゲノムDNAあるいはcDNAのpaired-end sequencingアプローチにより,さまざまながん種における融合遺伝子が次々と同定されつつある.
がん細胞におけるエピゲノム異常【近藤 豊】
がん細胞のエピゲノム異常は,がんの発生早期の段階から浸潤・転移に至るまで,個々のがんの特性に大きく影響を与えている.これまでの研究から,ほぼすべてのがん細胞で,広範な遺伝子座においてエピゲノム異常が蓄積していることが明らかとなった.エピジェネティック機構には,安定した修飾であるDNAメチル化,可逆性を保持しているヒストン修飾,クロマチン構造変化,さらには非翻訳RNAなどがあり,個々の機序が相互作用しつつ,かつ特徴的な役割を担い遺伝子発現を調整している.本稿では,がん細胞におけるエピジェネティクス研究の現況と将来への展望について述べる.

特別インタビュー

ライフサイエンス研究の新たなゴール
発症前に病気を防ぐ 「先制医療」 への挑戦
~遺伝素因の解明とバイオマーカー開発がもたらすイノベーションの姿【井村裕夫】

トピックス

カレントトピックス
左右非対称な組織形態形成の新たな機構【中澤直高/谷口喜一郎/前田礼男/安藤格士/松野健治】
中枢神経系特異的に発現するマイクロRNA-124aは神経細胞成熟に必須である【佐貫理佳子/古川貴久】
線虫C. elegansの記憶を制御する温度受容システムの発見【杉 拓磨/森 郁恵】
免疫プロテアソームの遺伝子変異が引き起こす自己炎症症候群【北村明子/安友康二】
News & Hot Paper Digest
神経変性疾患でなぜ神経細胞が死ぬのか?【平井宏和】
長鎖ノンコーディングRNAの“作業現場”のとらえ方【中川真一】
DNA修復タンパク質XPC複合体によるES細胞の自己複製能・分化全能性の維持【古久保哲朗】
第23回高遠シンポジウムに参加して【古澤純一】
オバマ大統領,処方せん医薬品の供給不足解消をめざす大統領令を発令【MSA Partners】

連載

【新連載】絵で見る先端分子生物学 ~教科書に描かれていないイノチのカタチ
高次クロマチン構造【解説:胡桃坂仁志/絵:松本亮平】
クローズアップ実験法
CGP染色:無臭・安価で迅速な高感度SDSゲル染色法【安光英太郎/戸田年総/大関泰裕】
誌上留学! ―ラボ英会話のKEY POINTS >>> Web留学編へ
次なるステップ ―指示をきちんとキャッチする【浦野文彦/Christine Oslowski/Marjorie Whittaker】
バイオテクノロジーの温故知新
DNAマイクロアレイ ―ゲノムワイド解析の道を開いた技術革新【岡㟢康司】
ラボレポート ―独立編―
光陰矢の如し,10年間の米国生活 ―Brigham and Women’s Hospital, Boston【前田高宏】
Opinion ―研究の現場から
理系大学院生活で養いたい3つの力【豊田 優/三田村圭祐/中原庸裕】

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