[Opinion―研究の現場から]

本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第25回 日本の研究体制―資金面における米国との比較

「実験医学2012年7月号掲載」

2009年,事業仕分けによる科学技術予算削減が話題となったことは記憶に新しい.今日,わが国における研究開発費総額は約1,500億ドルであり,米国約4,000億ドル,中国約1,540億ドルに次ぐ規模である(平成23年科学技術研究調査).特に米国と比較した場合,資金力の差や,よりよい研究環境を求めた優秀な人材の流出が,論文の被引用回数やノーベル賞受賞者数に代表される科学技術力に影響してきた可能性は否定できない.資源に乏しいわが国がさらなる経済成長を遂げるためには,高付加価値を生み出す科学技術力の向上が重要である.本稿では,資金面から日本と主要各国との研究体制を比較し,科学技術の発展のために何ができるのかを考えていきたい.

日米における研究開発費の違いは,2カ国における研究者数の違い(日本:約65万人,米国:約140万人.平成22年科学技術研究調査)を考慮しても,きわめて大きい.このような資金力の差が,2カ国の論文成果に影響してきた可能性がある.実際に,トップ10%論文数(被引用回数が各分野,各年で上位10%に入る論文数)のシェアは米国43%,日本6.4%(平成22年版科学技術白書)である.一方,研究開発費総額の対GDP比率は日本3.6%,米国2.8%であり(平成23年科学技術研究調査),研究開発への投資をこれ以上増やすことは難しい.そればかりでなく,論文数の差として認められる科学技術力の差は,資金力の違い以上に大きい.したがって,限られた資金の活用方法が重要となる.

日米における研究資金の使い方を比較すると,特に人への投資配分が大きく異なることがわかる.競争的資金制度において,米国では人件費の占める割合が5割であり(平成22年版科学技術白書),ラボマネージャーやテクニシャン,あるいは大学院生自身に対する給料(Reseach Assistantship)などに宛てがわれているという.一方日本では,研究開発資金を研究者自らの給与へ計上しづらいことや,テクニシャンや大学院生に支払える資金への制限から,必要な人材の確保が難しい.より効率よく研究を進めるために,柔軟な資金制度と人への投資の推進を期待したい.

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一方,科学技術力の向上を達成するためには,私たち研究者一人ひとりの力も必要である.研究者が個人で取り組めることとして,日々の研究生活のなかで,自らの研究を社会へ還元することを意識することを提案したい.確かに基礎研究はその性質から研究者の純粋な探究心により発展するものと思われがちであるが,研究者が社会への還元を意識することが増えれば,多角的に研究をとらえることにもなり,進展の可能性は高くなるだろう.そして研究成果が利益を生み出せば,未来を担う研究への投資が可能となり,日本の科学技術力の発展につながる.

また,研究内容や成果を発信し,科学の楽しさを社会に伝えていくことも非常に重要な意味があると考える.認知度調査によると,科学・医学的発見の最新の動向について日本では4割,米国では6割が知っていると答え,科学を学ぶことへの楽しさを感じる子供は,日本では45%,米国では57%である(平成23年版科学技術白書).国民への啓蒙活動を通じ,科学への関心・知識の水準を上げることで,もっと科学が身近に存在する社会をつくることができ,次世代の養成や,研究費投資への理解につながるはずである.研究が人間社会のなかで行われる営みである限り,利益を生み出すこと,理解されることは重要であり,決して研究者に関係ない事柄ではない.科学技術力を高めるため,国としてのさらなる取り組みを期待しつつ,われわれもできることをしよう.

宇田川侑子,浅野宏幸,吉川由希子(生化学若い研究者の会キュベット委員会)

※実験医学2012年7月号より転載