[Opinion―研究の現場から]

本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第21回 若手研究者のお財布事情

「実験医学2012年3月号掲載」

若手研究者,特に理系大学院生のお財布事情はどうなっているのだろう? その調査のため,生化学若い研究者の会が主催した「生命科学夏の学校」参加者を中心に,若手研究者93名(学部25名,大学院修士課程32名,博士課程28名,研究員8名)を対象とするアンケートを行った.経済状況および食事情に関する質問を行った結果,経済状況のみならず,生活基盤となる食生活の観点からも,若手研究者が直面する厳しい生活実態が浮き彫りとなった.

ひと月の平均収入額は,学部7.8万円,修士11.6万円,博士16.8万円,研究員33.2万円であった.その収入源としては,学部および修士の場合,仕送りを筆頭にアルバイトもしくは奨学金が続いた.一方,博士の場合,アルバイト従事者はおらず,8割以上が奨学金や研究奨励費を主な収入源としていた.また,今回調査対象となった博士の多くが採択率の低い研究奨励費を受給していたため,一般的な博士の収入はより低いと予想される.貯金額については,学部および修士の8割,博士の4割が50万円以下であった.

経済状況に関する意識調査のため,「自分の経済状況をどのように感じているか」について自由回答形式で尋ねた結果,50%が「悪い」,40%が「恵まれている」と回答した.特筆すべきことに,親への経済的依存に対する引け目や奨学金返済への不安なども寄せられた.「良い」ではなく「恵まれている」との回答が多かったことは,学生を続けていることや,一般的な就業とは異なる収入源(研究賞奨励費)により生活が支えられていることへの感謝の念を反映していると考えられる.改善したい点については,課程を問わず「食費を減らしたい」との回答が多く,そのための工夫として「自炊を行っている」との記述が顕著にみられた.

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そこで,食事情に関するアンケートを行った.その結果,1日の平均食費額は,学部980円,修士1,070円,博士1,240円,研究員1,143円であり,課程ごとに増加傾向がみられた.回答全体における各食事の平均額は,朝食170円,昼食430円,夕食510円であった.これは学部の36%,修士以上の15%が「朝食を食べない」と回答したことを反映しているのかもしれない.次に,食事の摂り方に関する回答をまとめる.昼食に関しては,回答者の52%が大学食堂を利用しており,次いで自炊,既製品,外食の順となった.一方,夕食に関しては,最も多い36%が自炊をしており,大学食堂,外食,既製品が順に続いた.安価で栄養価の高い食事を提供する大学食堂の利用率が高いという結果は,若手研究者の経済状況が厳しいことを反映しているといえる.また,「自分の食生活をどのように感じているか」という問いに対しては,過半数が「悪い」と答えた.その理由として,回答者の4割が 「野菜,栄養の不足」を訴えており,意識は高いものの,必ずしも満足した食生活を送っているわけではないことが示された.

国税庁による民間給与実態統計調査(平成21年)によると,20~24歳の平均年収が243万円(20.25万円/月),25~29歳が328万円(27.33万円/月)とある.本調査結果と比較すると,大学院生の収入が総じて低く,食生活にも影響が及んでいることがわかる.研究室での成果を担う大学院生の確保あるいは優秀な人材の研究離れを防ぐためには,国や大学がRA・TA制度などの経済的サポートをさらに充実させ,研究者という選択肢が経済的にも「良い」と感じられるものになることが重要である.キュベット委員会は,今後も継続して調査を行い,若手研究者が抱える問題を正確に社会に伝えていきたいと考えている.

若手研究者のお財布事情アンケート結果はこちら(生化学若い研究者の会HP)

谷 友香子,一条美和子,前廣清香(生化学若い研究者の会キュベット委員会)

※実験医学2012年3月号より転載