[Opinion―研究の現場から]

本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第37回 必要な理解と支援 研究と育児の両立に向けて

「実験医学2013年7月号掲載」

任期付き若手研究者にとって公共保育施設の利用は難しい,ということをご存知だろうか.認可保育所では受入児童数に制限があるため,入所の優先順位が低いと判断されると子どもを預けられない場合がある.このときの判断基準の1つが「親の就労状況」であり,入所時の職場から発行される就労証明書によって保証されることが一般的である.新年度からの入所を希望する場合,前年の11~12月頃が申請期間となるため,この時期に年度明けの職場が確定している必要がある.

任期付き若手研究者にとって,これはときに困難を伴う.加えて,勤続年数の短さが入所の選考で不利になることもある.認可保育所を利用できないからと認可外保育所の利用を検討すれば,高い利用料金に悩むことになる.認可保育所の利用料が高くても月額8万円台であるのに対し,認可外保育所の利用には行政の補助がない限り月に15万円程度かかるのである.こういった現状に即し,彼らが利用しやすい保育施設が大学や研究機関に整備されるととても心強い.

ここで,実際に若手研究者が利用しやすい保育施設が整備された例を紹介したい.東京大学は4つの保育所を保有しており,構成員(認可保育所の入所選考で不利になる学生も含む)へと優先的に枠を回してくれる.これは認可保育所と同等の料金で利用できるため,新年度の職場の決定が遅れた研究者にも利用しやすい.また,名古屋大学には放課後の小学生を預かる独自の学童保育施設が存在する.小学生の帰宅時刻は保育園児と比べて早くなるが,放課後に小学生を預かり居場所を提供してくれるのが学童保育である.ところが,学童保育の多くは小学4年生以降の児童を対象にしていない.そのため,この児童をも対象にした大学独自の学童保育施設が存在することは,仕事と育児との両立を望む研究者への大きな支援となる.現在,学内に保育施設を整備した大学は10程度に限られるが,今後そのニーズはますます高まっていくと考えられる.

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保育施設の充実は,若手研究者が仕事により集中することを助けるに違いない.研究機関にとっても,育児との両立ができずに研究の場から離れてしまう優秀な人材を取り込むことにつながり,利益をもたらすことが期待される.前述したような施設を単独の機関内に整備することが難しい場合には,近隣の研究機関が共同で施設運営に取り組むことが有効ではないだろうか.

一方,保育施設が整備されていたとしても,職場の環境や上司・同僚の理解が,育児と研究との両立を望む研究者の悩みになることもある.今日,“裁量労働”と銘打った長時間労働が常態化しているラボは少なくない.そのなかで,相対的に早い時間に保育所に子どもを迎えに出るときにラボメンバーの目が気になるといった声も聞かれる.

もちろん,育児と研究とを両立させるうえでは,研究者自身の工夫も必要になる.両立をめざしたときに,子どもをもつ前と比べて長い時間ラボに身を置けない場面は,誰しもに訪れうる.「ラボでしかできない仕事をラボでこなし,それ以外の仕事はラボ外でする」これが,研究と育児を両立させるための秘訣の1つである.逆に,もし限られた時間で価値を生み出せなければ,プロとして研究者を名乗れないと言っても過言ではない.

しかし,価値の創造(研究成果の積み上げ)ができるのは職場に限らず,研究において大切なことは決して「ラボにいる時間の長さ」ではない.同じ研究者でも,時間の配分は家庭の状況により人それぞれであると言える.このことが理解され,育児や家族との時間を大切にしながら研究に打ち込めるラボが増えてほしい.育児との両立をめざす多くの若手研究者が力を発揮できるよう,保育施設やラボの環境が整ってほしいと心から願ってやまない.

梅澤雅和,谷中冴子,豊田 優(生化学若い研究者の会キュベット委員会)

※実験医学2013年7月号より転載