[Opinion―研究の現場から]

本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第44回 「場」が融合させる新しい研究分野〜合宿のススメ

「実験医学2014年2月号掲載」

日本は「個人ではなく領域に予算がつく」という海外では珍しいシステムをもつ.これは世界に誇れるすばらしい予算制度である.このシステムは,文部科学省主導の科学研究予算として,「新学術領域研究」,古くは「特定領域研究」とよばれてきた.

研究における偶然の発見から,当初の目的と少し離れた研究分野の勉強が必要になることは多い.また,少し離れた研究分野の勉強が,自分の研究分野の理解にいつも大きなヒントを与えてくれる.このように,既存領域の融合は時に新たな領域を創出する.異分野融合を推進するうえで強力なパワーを発揮するのが研究者間でのコミュニケーションである.数日の間,多分野の専門家を1カ所に集めて寝食をともにすれば,自然と会話が弾み,何か新しい閃きが創出される.確かに今の時代,メール1つで共同研究を申し込むこともできる.しかしやはり,リアルな場で顔を合わせて,それぞれの発想や知識をぶつけることではじめて生まれる閃きがあるはずである.日本でも,例えばゴードン会議のように50〜300人程度が集い,研究合宿をするための予算をもっと増やしてもよいのではないかと思う.この考え方に近いのが,冒頭に述べた新学術領域研究の班会議である.個人研究だけはなく,人と人が顔を合わせる機会が自然と増える.領域長の先生たちにはぜひ,班員を集めて例えば合宿をする,ということに予算を投資してもらいたい.多分野の専門家を集めることにより,新しい研究が生まれる場を創ること,これが今求められているのではないだろうか.

[オススメ] 米国で活躍中の日本人研究者&ネイティブ英語教師の強力タッグで,通じる発音のポイント,ラボ・学会で伝わるフレーズを伝授.

「日本人研究者のための120%伝わる英語対話術」

私自身は約24時間周期でくり返されるサーカディアンリズム,その分子メカニズムの研究をしている.興味のスタートは睡眠を分子生物学で理解することであったのだが,今は睡眠に留まらない多くの生理現象に時間軸を持ち込むことが時計専門家の使命であると考えている.例えば,1つの組織で発現している遺伝子を調べると約10%に転写リズムがみられる.これを多くの組織や分化ステージで加算すると,半分近くの遺伝子が概日時計の制御下にあると考えられている.本誌読者が研究対象とする遺伝子も,サーカディアンリズムの影響を受けているかも知れない.このような融合研究を進めるとき,自分が新たな研究領域に参入する手もあるが,一番早くパワフルなのは共同研究である.生物リズム研究は多くの領域との融合を熱望しており,私たちはこれを1つのモチベーションとして2010年から若手研究者で集まり議論をする合宿をしている.10名程度の講師を招待して100名程度が集う場である(https://sites.google.com/site/biorhythmwakate2013/).「新しい実験系を立ち上げたのだが,上手くゆくときと上手くゆかないときがあり,データが安定しないと思っていた.よくよくデータを調べると実験をする時刻が大切であることがわかってきて…」という参加者の声もある.それぞれの領域が,自分たちの領域に新たに興味をもった研究者を集める場を用意することにより,想定外の研究が次々と発掘されるのではないだろうか.研究人生は意外と短い.特に生物系の研究では真実の発見とその証明には時間がかかるため,1人の研究者が本気で向き合える研究テーマには限りがある.多分野の研究者が集まれば,その組み合わせの数は爆発的に増えてゆく.できるだけ,わくわくするような研究を続けたいものである.

吉種 光(東京大学大学院理学系研究科/生物リズム若手研究者の集い初代世話人)

※実験医学2014年2月号より転載