[Opinion―研究の現場から]

本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第58回 震災から4年―研究を通じた復興支援のいま

「実験医学2015年4月号掲載」

東北地方太平洋側を中心に甚大な被害をもたらした,東日本大震災の発生から4年の月日が経過した.震災当時,被災地の研究機関は大小さまざまな被害を受けた.私たち生化学若い研究者の会は,本誌2011年9月号掲載のOpinion欄にて,若手が直面する問題と支援策について論じた.本稿では,自身もまた被災者の一人であり,現在東北地方で研究に携わっている筆者が,これまでの4年間で被災地の研究機関が地元企業とともに進めてきた復興支援の取り組み,現在の課題,そして今後の展望を,現地の生の声をもとに紹介する.

一つ目に紹介するのは,震災当時,筆者の出身地でもある岩手県釜石市に所在していた,北里大学感染制御研究機構海洋バイオテクノロジー釜石研究所である.同研究所は,世界有数の海洋微生物ライブラリーを有し,創薬開発や微生物の機能解析をはじめ幅広い研究を手掛けている.津波により2階建ての建物の1階部分が破壊され,海外由来株を含む数万株の貴重な微生物ストックのうち約半分が失われた.その後,復旧作業に追われ,本格的に研究活動を再開できたのは約4カ月後であった.翌年の春には釜石市の南に位置する大船渡市の同大学三陸キャンパスに拠点を移し,文部科学省や農林水産省の地域産業に根ざした研究プロジェクトをはじめ,大小さまざまな資金を得ながら研究に取り組んできた.そして現在は,同じく被災した沿岸部の企業とともに,釜石市の花「はまゆり」由来の酵母を使った商品を開発している.

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続いて二つ目に紹介するのは,内陸部に位置し直接の被害を免れた,岩手県の一関工業高等専門学校物質化学工学科 戸谷研究室である.同研究室では,カニ殻・エビ殻残渣に由来するキチン質バイオマスの有効利用に関する研究に震災前から取り組んでいた.その経験を生かし,震災直後から文部科学省やJSTの支援の下,被災した沿岸部の水産加工業者と地域資源を活用した機能性素材の共同開発をスタートさせた.他にも,復興関連事業を手掛ける企業に人材を輩出し,復興に貢献している.

このように,被災地近隣の研究機関による支援活動が進む一方で,震災発生から4年の年月が経ち,世間の復興への関心が低下していることも感じている.公的な支援も終了しつつあり,厳しい状況に置かれている被災企業も数多く存在するという.一関高専の戸谷先生は,「ただ単にお金やモノの支援をするだけでなく,経営ノウハウの伝達や人材の育成など,長い目で見て被災した企業が自立していけるような支援が必要」と指摘する.また,復興支援に取り組む研究機関でも人員不足が問題となっている.継続的な復興支援のためには,人材の確保が大きな課題の一つとなる.

そうした課題を抱えながらも,現地の研究機関は震災からの復興だけでなく,その先の発展を見据えて日々の研究活動を行っている.「ここからの5年が,被災地が元に戻るのではなく被災前を超える姿になるのに重要.支援を受けるだけではなく,さまざまな形でフィードバックをしていきたい」と北里大学の笠井先生は展望を語る.また,一関高専の戸谷先生は,「これからは震災復興も含めて,広い意味での地域活性化に寄与していくため,共同研究と人材育成を継続していく」としている.

前述の通り,被災地のこれからの復興・発展のために必要になるのは現場の人材である.特に私たち若手研究者が,被災地で活発に研究・開発に携わっていくことが求められている.実際には,被災地から離れた地域の研究者が,現地に赴いて直接研究に関与することは難しいかもしれない.しかし本稿が,読者の皆様にとって震災復興について今一度考えるきっかけになれば幸いである.

今回の記事の執筆にあたり取材にご協力いただきました,北里大学 特任教授の笠井宏朗先生,ならびに一関工業高等専門学校 教授の戸谷一英先生に深く感謝を申し上げます.

西村亮祐(生化学若い研究者の会 キュベット委員会)

※実験医学2015年4月号より転載