[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第73回 “ 憧れ”のバトンを次の世代へ―研究者という職業を伝える

「実験医学2016年7月号掲載」

小学生の「なりたい職業」ランキングでは,「学者,博士」の人気がスポーツ選手に次ぐ,という近年のデータがある.「研究者」は,子どもにとって憧れの職業の1つといえそうだ.それでは「研究者に憧れる」とは,どういうことなのだろうか? ほんの10数年前は小学生だった筆者らの世代,つまり,駆け出しの研究者や研究者の卵といわれる世代が,研究の世界へ飛び込んだきっかけについて調べ,「研究者に憧れる」ということについてあらためて考えてみた.

筆者らが所属する「生化学若い研究者の会」主催の「第55回生命科学夏の学校」でアンケート調査を実施した.その結果,回答を得られた41人(男女比およそ1:1,9割が学生)のうち,なんと4分の1もの人が,「小学生の頃から『研究者』になりたかった」と答えた.具体的に「生命科学の研究を志す」という現在に直結する決断をしたのは,「高校生の頃」が全体のピークだった.また,「研究者をめざしたきっかけ」を問う設問には,われわれの世代が10代の頃に理科教育に積極的にとり上げられはじめていた分子生物学の研究成果や,環境問題や食糧問題に取り組む研究者の姿に“憧れた”といった回答が目立った.

筆者の一人も,ヒトES細胞について学んだ高校の授業が,生命科学に興味を抱くきっかけだった.再生医療が実現しつつあるなか,細胞分化にまつわる多くの謎は残されたままであることに驚き,その解決に自分も取り組みたいと思った.また,もう一人の筆者も,高校生の頃,当時ヒットしていた福岡伸一先生の著作『生物と無生物のあいだ』を読み,生命を物質の流れと捉える考え方に衝撃を受けた.「生命とはなんだろうか?」と四六時中考えるようになり,気付けば研究者への道を歩みはじめていた.少なくともわれわれ,今の若手世代は,上の世代の「仕事」や「考え方」に魅力を感じて,研究の世界に飛び込んだ人が多そうである.

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現在のわれわれもまた,次の世代つまり今の子どもたちにみられ,影響を与えることになるのだろう.仕事の内容で子どもたちに「憧れ」を抱いてもらうには,諸先輩方を超えるような研究成果を出さなければならないだろう.しかし,それだけでなく筆者らは,研究者という職業の魅力の伝え方も大切にしたいと思っている.職業としての研究者の魅力を伝えることは,研究成果や研究の意義を発信することにとどまらないだろう.なぜなら,研究内容が正しく伝わることは,それらが「おもしろそう! 自分もやってみたい!」と子どもたちの心を動かすことに,必ずしも直結するとは限らないからだ.それなら,研究をしているときの「世界ではじめて,自分がこれを解き明かすんだ!」とわくわくする感覚を子どもたちに追体験してもらうことで,職業としての本質的な魅力が伝わるのではないだろうか.

一例として,オープンキャンパスでの中高生向けの体験授業を考えてみる.答えのわかっている実験を体験してもらうのではなく,答えの出ていない課題について,参加者自身に仮説や実験計画を立ててもらう.教員や学生による一方的な講義でなく,参加者の考えをもとにディスカッションをする.「分からないこと」がダメなことではなく,「世の中分からないことだらけだから楽しい!」と,次世代に実感してもらうのだ.試行錯誤をしながら謎を解明していく,その醍醐味を追体験できるコンテンツこそ,大学での研究活動を伝えるという目的にも適っているだろう.

「憧れ」のバトンがつながることで,科学コミュニティも続いていく.その一員となった今,次の世代に「研究者という職業」をどのように伝えたいか? 時にはそんなことも頭の隅に置きながら,日々精進したい.

※ 出典:株式会社クラレ 2015年度版 小学6年生の「将来就きたい職業」,親の「就かせたい職業」男の子編 http://www.kuraray.co.jp/enquete/occupation/2015_s6/boys.html

村山 知,水口智仁(生化学若い研究者の会 キュベット委員会)

※実験医学2016年7月号より転載

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