[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第72回 もっと光を! 異分野をつなぐ光合成研究のおもしろさ

「実験医学2016年6月号掲載」

光合成――実験医学の読者であれば,この生命現象を知らない方はいないだろう.では,その研究と聞いて,どんな風景を思い浮かべるだろう? 私の場合を例にあげると,絵の具のように真緑のバクテリアを何十リットルも培養し,論文を読むのも儘ならないほど薄暗い部屋で,酸素濃度1 ppm以下のビニールテント内に手を突っ込み,雀の涙ほどの色水をとって喜び,今度は真っ暗な部屋で,生命科学分野では聞いたこともないような分光測定をしていたりする.その成果は,光合成研究に特有のスペクトルだらけのデータとなり,おおよそ生命科学の研究とは思えない内容になる.そのせいで,分野外の研究者からは(植物の研究者でも)「難しい」「ハードルが高い」「排他的」「偏屈っぽい」と敬遠されてしまう.実際にはむしろ逆であることを伝えるために,今私はこの記事を書いている.

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光合成の研究は信じられないくらい学際的である.これは光合成が,光化学反応から個体の生死までという,恐ろしく幅広い時空間スケールの現象であるためである.物理学,化学,生化学,分子生物学,およそ皆さんが思いつく学問分野が,光合成のキーワードでつながることができる.さらには,「進化」や「地球」も研究対象となるため,生態学,系統学,地球科学,果ては系外惑星の探索などの天文学や宇宙科学も加わって,完全にカオス状態である.光合成を勉強しようと書籍を開いた初学者は大抵,「これをすべて理解するの? 無理!」と思うことだろう.生化学の教科書で光合成の章を読み飛ばした読者は少なくないはずだ.大丈夫.すべてを完璧に理解している光合成研究者は私を含め,ほとんどいない.実際の現場では,各人が得意分野を軸に,テーマごとに他の研究者と共同で研究している.一人ひとりは何かのプロで,「他のわからないことは,そのプロに聞け!」というスタンスだ.そして,新しいテーマで研究するたびに新しい研究分野に出会い,毎度少しずつ知識の裾野が広がっていくのを楽しんでいるのだ.排他的なイメージとは真逆の,むしろオープンマインドな集団といえるだろう.翻せば,「光合成の研究をしています」という研究者に特定の最新情報について聞いても,「守備範囲外,Xさんに聞くべき」となる.光合成研究のハードルは高く見えるだけで,じつはほとんど障害なしのリレー競争と言える.例えば,ミトコンドリアは過去の光合成生物かもしれないので,それだけで光合成とかかわってしまう.光合成生物やその遺伝子を使ってみたい程度で十分に参入できる分野なのだ.皆さんの好きな分野と得意な技術で,一緒に光合成研究してみませんか?

私が所属する日本光合成学会(http://photosyn.jp/)は,光合成研究の発展と研究者の交流を活性化する目的で設立された.実に36年以上の歴史をもつ.日本光合成学会若手の会(https://sites.google.com/site/photosynwakate/)は,その下部組織であり,若手研究者の研究能力の向上と裾野の拡大を目的に活動している.実は今,光合成研究は深刻な人材不足である.これは各分野のプロがいなくなることを意味し,極度に学際的な研究分野では危機的な状況である.私自身,若手の会の会長を務めてすでに3年目になるが,次の会長候補が決まっていない.光合成研究に対する排他的な印象を払拭し,さまざまな研究者の新規参入が切に望まれている.光合成学会の年会費は破格に安く(年間1,500円!),年3回の会報を中心に,「光合成」を唯一のキーワードに多種多様な情報が得られる.本記事を読んで興味をもたれた諸氏には,ぜひ一度,光合成研究の発表や,光合成学会の様子を覗いていただきたい.

浅井智広(立命館大学生命科学部生命情報学科/日本光合成学会若手の会会長)

※実験医学2016年6月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2016年6月号 Vol.34 No.9
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吉岡祐亮,落谷孝広/企画

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