[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第102回 innovativeになる・innovationを起こす

「実験医学2018年12月号掲載」

“異なる国籍,異なる研究背景をもつ研究者と新たな研究テーマを立案する”昨年,AMEDとNew York Academy of Science (NYAS)が共催したInterstellar Initiativeへ参加する機会を得た.ニューヨーク・ロウワーマンハッタン,NYAS本部が入る貿易センタービルでチームの面々とはじめて会い,正味3日間で研究計画の立案をし,最終日に内容の新規性や将来性をコンペ形式でプレゼンテーションを行うというハードな内容であった(どのチームもホテルに戻ってから深夜までディスカッションを続けていた).当チームは苦労の甲斐がありOutstanding Team Presentation Awardを受賞することができた.英語でコミュニケーションを図り,日本人研究者がリーダーシップを執ることがこのイベントの目玉でもあったが,帰国後仕事をしているなかで気がつくことが多々あった.医学系研究領域に身を置いていると,ライセンスのヒエラルキーに縛られている学生や研究者を目にすることが多い.興味深いことに,意味もなくドメスティックなマウンティングをくり返す“井の中の蛙”は,海外の研究者からは“Too confidence!”(自信満々だね)と笑われ,国内の研究者からは“何を言っているのかわからない”と言われている.

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「研究者・留学生のためのアメリカビザ取得完全マニュアル」

Memorial Sloan Kettering Cancer Center留学当初の私は“日本人研究者”としか認識されていなかった.その後,研究手技をシェアすることやディスカッションを重ねて“腫瘍免疫が専門らしい”や“制御性T細胞を用いた実験に詳しい研究者らしい”へと変化した.研究者にとってコミュニケーションとしての言語は言葉だけではなく,自身の研究領域への造詣の深さや相手の研究を理解しようとする気持ちが多分に含まれているということに気がついた瞬間であった.世界中から集まる研究者達は,国内では非常に重要視される最終学歴といった瑣末な背景には全く目もくれないといった風であったが反対に,“あなたは一体何ができるの?”と常に問われているようなプレッシャーを感じて毎日を過ごしていた.

世界の創造主でもなければ自分が専門としている研究領域以外については“ど素人”である.こんなシンプルなことに気がつくと逆に世界が広がるというおもしろい現象が起きはじめる.留学から帰国したタイミングやこのイベントの後に,さまざまな領域の研究者との共同研究がスタートしたことと無関係ではないと感じている.今回の原稿は,国際的な場で活躍する人材とは? をテーマにいただいた.国際人材=グローバルな活躍が期待できると私は定義している.そのなかには,ツールとしての語学力・海外経験(あれば)・コミュニケーション能力が内包されているが,それらをさらに大きく包む要素が専門性だと確信している.研究にボーダーがないように,研究を行う“場”も“相手”にもボーダーはない.国内で積極的に共同研究を行える人材は,どこででも誰とでも研究を行うことができる.そもそもinnovationには刷新や創造という意味も含まれる.現行のシステムを刷新・創造できるinnovativeな人材・異分野との共同研究を進めることができる人材とは相互理解を深度を持って行う能力を有している研究者ではないだろうか.現在求められているこういった人材には,決して“自信過剰な井の中の蛙”ではなり得ないと確信している.私はというと,真摯であれ! 謙虚であれ! とカエルを反面教師に研究を続ける日々である.

前田優香(国立研究開発法人国立がん研究センター研究所腫瘍免疫研究分野)

※実験医学2018年12月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2018年12月号 Vol.36 No.19
RNAが修飾される!エピトランスクリプトームによる生命機能と疾患の制御

五十嵐和彦,深水昭吉/企画
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