[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第112回 アカデミア研究者に「向いている」のってどんな人?

「実験医学2019年10月号掲載」

アカデミア研究者(以下,研究者)を志すわれわれ筆者らは,「自分は研究者に向いているのだろうか?」としばしば不安に思うことがある.「研究者をめざすには何が重要か?」「そもそも研究者の適性とは?」これらの疑問の答えに迫るべく,研究者に求められる資質と素養に関する調査を行った.対象は大学等の教育機関や公的研究機関に在籍する生命科学系の研究者と学生で,PIの常勤教員・研究員202名,非PIの常勤教員・研究員とポスドク212名,学生133名の計547名から回答を得た.アンケートは選択式の全3問.各問9つ以上の選択肢から特に重要と思う上位3項目を選択してもらい,1位から順に3点・2点・1点の重み付けを行って選択肢ごとのスコアを算出した.文中では理論上の最高点に対する得点率(%)を示す.

「研究者に向いている人」とはどんな資質をもつ人か.調査では「研究を楽しめる(59%)」「論理的思考力(54%)」が圧倒的上位を占めた.これは多くの読者も納得の結果だろう.次いで「柔軟な思考(27%)」「忍耐力・精神力(25%)」が並んだ.一方で「人脈(7%)」「協調性(6%)」「手先の器用さ(5%)」はスコアが低かった.「その他」と回答した人の自由記述では「楽観的」「探究心」「観察力」などの文言が目立った.まずは研究を楽しみつつ辛抱強く取り組めるかどうかが,研究者としての生き方に向いているかどうかの判断材料になるのではなかろうか.そして大学院やポスドク期間中の訓練でいかに論理的思考力を高められるかが重要になってきそうだ.ちなみに,学生と教職員の間でスコア分布の違いはみられず,「理想の研究者像」は共通していた.

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常勤職を得るために必要な要素としては,学生・教職員ともに「研究業績(43%)」が筆頭に挙がった.それに続いたのは意外にも「運のよさ(31%)」であり,特に教職員では「業績」に迫る勢いだった.PIでは「積極性・主体性」,非PIでは「広い人脈」が3位に着けている.学生では「運」「人脈」「執筆能力」がほぼ同率で2位となっており,スコアは「業績」の約半分.われわれを含め学生は卓越した研究業績が何よりも大事と考えているが,実際に職を得ている研究者は人物面も重視しているようだ.研究室に閉じこもらず,積極的に出会いを拡げることが幸運をつかむことにも繫がるということだろうか.

続いて独立した研究者(PI)としてラボ運営を行うには何が必要か聞いた.「研究業績(25%)」は3位に下がり,「執筆・文章能力(46%)」「計画立案能力(35%)」といった実務上の技能が上位を占めた.自由記述でも「グラント獲得」「研究以外の業務能力」が多く挙がった.「勉強と研究の出来は関係ない」とはよく言われるが,「学力」「英語力」を選択した人は前問も含めてほぼ皆無であった.スポーツ選手と監督で必要な資質が違うように,PIとして独立するためには業績以上に高度な文章能力とマネジメント能力を身に付けることが重要であるようだ.

本調査から,「研究者向きの人」がもつ資質と実際に職を得るのに必要な要素の違いが見えてきた.研究者として生き残るためには,卓越した業績をあげると同時に積極的に人脈を広げ己を磨くことも求められている.今回は生命科学系かつアカデミア研究者のみを調査対象としたが,ここで得られた示唆は他分野にも通ずる部分が多いと推察する.自分自身が研究者に向いているという確証はまだ得られてない.それでも研究を楽しむ気持ちを忘れず,仲間と切磋琢磨し,研究者になるための不断の努力を続けていきたい.

【謝辞】本調査にご協力いただきました,公益社団法人 日本生化学会,生物物理若手の会,脳科学若手の会の皆様に深く感謝申し上げます.

西村亮祐,寺田拓実(生化学若い研究者の会キュベット委員会)

※実験医学2019年10月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2019年10月号 Vol.37 No.16
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