[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第111回 若手研究者が学際的研究を行うために

「実験医学2019年9月号掲載」

近年,日本の研究力の低下が問題となっており,その打開策として文部科学省が今年,方策をまとめた「研究力向上改革2019」を報告している.そのなかで,研究力の低下のひとつの要因として,新たな研究分野への挑戦不足が問題であるとして「新興・融合領域の開拓に資する取り組みの強化」があげられている.このような革新的な研究に挑戦するためには,細分化された学問分野を超えて,複数の学問分野が共同で研究を行う,いわゆる学際的研究が重要になってくる.多くの若手研究者の方も,異分野交流などで,全く異なる発想,研究手法,テクノロジーが,独創的な研究を推進するうえで重要であることを認識していると思う.しかし,実際に学際的研究を行うには,さまざまな課題・問題点があり,ハードルが高いと感じている方も多いのではないだろうか.私は,国立がんセンターの前田先生(同コーナー第102回,2018年12月号掲載)と同じく,若手研究者の国際的・学際的共同研究推進を目的とし,AMEDとNew York Academyが共催したInterstellar Initiativeに参加した.そこで,異なる分野の海外研究者と議論し,新しい研究テーマ・研究プロポーザルを立案した経験から,実際に若手研究者が学際的研究を行ううえで,私が感じた課題・問題点を述べたいと思う.

①学際的共同研究は,通常の共同研究と比べて格段に難しい

実際に,異分野の研究者と議論し,研究プロポーザルを立案した経験から,学際的研究の成功には,最初の課題・仮説の設定の段階から,他分野の異なる視点から互いが十分に議論し,協力することが重要であると感じた.しかし,これを行うためには,他の分野の研究文化,研究手法,方法論等を理解しなければならない.これは言うは易く行うは難しで,他分野の学習には一定の時間も必要であるし,なにより,他分野を理解しようとするモチベーションも大事になってくるだろう.さらに,学際的共同研究を進めるためには,他分野の研究アプローチを広い視野から総括できるリーダーシップが必須であると感じた.以上のことから,学際的共同研究は,通常の共同研究と比較して,相互理解・信頼関係がより重要になると考えられる.

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②学際的研究のグラントが少ない

生命科学分野における国際的・学際的共同研究のグラントは,ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)がよく知られており,研究費も大型であるが,難易度が非常に高い.また,世界的に見てもこのような研究グラントの数はまだまだ少ない.さらに,日本に限ったことではないが,学際的研究プロポーザルを通常のグラントにアプライしようとする場合,その重要性が正しく評価されない可能性があるだろう.なぜなら,研究プロポーザルの審査は,通常は細分化された分野の専門家によるピアレビューで採否が判断されるため,複数の研究分野からなる学際的研究は,専門分野からなる研究プロポーザルと比べて,不利となる可能性があるからである.個人的には,革新的研究を推進するためには,科研費のなかに,特に若手研究者同士でアプライできる学際的研究を目的としたグラントを設立することが望ましいのではないかと思う.

以上述べたように,学際的研究を行うことは困難を伴う.しかし,各学問分野がある程度成熟しつつあるなかで,異分野が連携・融合して新しい知の開拓に挑む学際的研究は今後ますます重要になってくると思われる.本稿が,学際的研究に興味をもつ若手研究者にとって有用な助言になれば,幸いである.

辻田和也(神戸大学バイオシグナル総合研究センター)

※実験医学2019年9月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2019年9月号 Vol.37 No.14
HLAと疾患感受性
自己免疫・アレルギー疾患やがんにおける“自己”の役割

荒瀬 尚/企画
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