[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第123回 ポッドキャストで語るサイエンスとその魅力

「実験医学2020年9月号掲載」

Researchat.fmという原著論文の解説や趣味などについて自由に話すポッドキャスト番組(インターネットラジオ)を研究者の友人たち3人で始めてから一年半が過ぎ,きわめてニッチなコンテンツでありながらも少なくないリスナーを獲得するに至った.本稿では,ポッドキャストの面白さと研究者が自身のメディアで発信する重要性について考えたい.

ポッドキャストは,ブログのようにRSSフィードを通じて音声を配信することである.2000年代の初頭から北米を中心に流行し,多くの有名ポッドキャスターたちが生まれた.特にテック企業やスタートアップで働く人たちによる番組は根強い人気がある.サイエンス系のコンテンツには,Nature※1Science※2といった科学雑誌の出版社が自社に掲載された論文やニュースを解説する番組があり,多くの人々に親しまれている.例えば「GuidePost」※3という番組のあるエピソードでは,筆頭著者との対談を通じて,論文受理に至るまでの熾烈な競争やエディターとの駆け引きなど,論文を読むだけでは決して知りえないリアルなサイエンスの現場を垣間見ることができる.ポッドキャストは,リスナーとの距離が近いメディアであり,年齢の近い若手から分野では誰もが知る超有名人まで,研究者のパーソナリティを知ることができる点が大きな醍醐味である.これに加え,YouTubeなどの動画配信サービスと比べて,再生画面に集中する必要もなく,通勤時間や家事,ランニング中に気軽に聴くこともできる.一方,日本では北米と比較して番組数も少なく,研究者がサイエンスについて配信する日本語の番組はほとんどないため,本番組はニッチな番組として新たな価値を生み出せそうだと考えた.

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「科研費獲得の方法とコツ 改訂第7版」

Researchat.fmは,東京,山形,ボストンと地理的に遠く離れた場所で働く3人によるポッドキャスト番組である.収録のほとんどは音声チャットを用いて遠隔で行い,聴きやすく編集した音声とともに解説資料などのリンク集をウェブサイト(http://researchat.fm)のほか,AppleやSpotifyなどからも配信している.これまでに62回分のエピソードを公開し,4人のゲストにも登場していただいた.内容は主に,おもしろいと感じた技術や論文について可能な限り出典を示しながら解説や紹介をする.例えば,最新のCRISPRゲノム編集技術や高次染色体構造を計測する論文解説や,DNAデータストレージ技術と関連スタートアップ企業の動向などである.このほかにゲームや漫画,映画など趣味を話すこともよくある.当初はこのニッチすぎる番組にだれが興味をもつのか全く予想できなかったが,学生からシニアまで幅広い研究者と,何よりアカデミアと縁のない業種の人たちまで楽しんでいただけているようだ.おそらく,サイエンスの現場にある独特の臨場感とそのリアリティがリスナーと距離の近い音声メディアの特性とうまくマッチしたのだろう.番組中で解説した論文や研究内容あるいは雑多な会話を通じて,サイエンスや研究者に興味をもち,その裾野がわずかにでも広がったのならこれ以上の喜びはない.国内でポッドキャストを配信する人口は徐々に増えつつあり,簡単に配信をはじめられるAnchorなどのウェブサービスも登場した.本稿を通じて,研究者によるポッドキャストが盛り上がることを大いに期待したい.

石黒 宗(東京大学先端科学技術研究センター 合成生物学分野)

※実験医学2020年9月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2020年9月号 Vol.38 No.14
実験にも創薬にも使える!プロテインノックダウン
ユビキチン系・オートファジー系を利用しundruggableな標的タンパク質を分解する

内藤幹彦/企画
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