[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第124回 国内学会の英語化は必要か?

「実験医学2020年10月号掲載」

近年,国内学会において英語化が進められており,発表言語を英語のみとするケースが現れはじめている.国際化を推進する現状を考慮すると英語化は当然の流れとも思えるが,ここで国内学会を英語化する利点と欠点についてあげ,その必要性について今一度考えてみたい.

まず利点として考えられることは,国内学会ながらも国外の研究者と議論し交流を深められることがあげられる.また,英語でのセッションは,学生が国際学会の雰囲気を知るよい機会になる.このような利点があるので英語で発表する機会を設けることは意義があるし,国外の研究者と議論を交わすことで得られるものは多く,英語が拙いという自覚があったとしても自分の知りうる英語表現を駆使して議論に臨むことは大切である.

しかし,英語化がもたらすのは利点だけではない.学会での発表者にはそもそも日本語での研究発表経験の少ない学部生や大学院生も多い.そのうえさらに英語が苦手となれば,学会発表のハードルは相当高いものになるだろう.実際,日本人どうしが英語で議論をしている際には,英語表現の拙さゆえ議論がままならない場面もみられる.この場合,英語は議論の妨げとなり,学会発表の意義を考えた場合に,本末転倒にさえ思えてしまう.発表者が発表原稿を丸暗記したとしても質疑応答までは暗記できない.質疑応答には,相手の言葉を正確に聞きとり,自分の意見を適切な英語で表現するという非常に高度な能力が要求されるため,ことさらさらに難易度が高い.

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国内学会の意義が研究の議論,研究者どうしの交流であることを踏まえると,英語化の推進については,ただ利点だけをみるのではなく慎重に吟味する必要があるのではないだろうか.本来,より深い議論に適するのはやはり母語であり,外国語を用いることで議論がままならなくなるのでは元も子もない.このように,正直なところ現状では国内学会における英語化は利点よりも欠点が目立つように感じられる.学会は議論の場である.英語での発表は最低限の発表技術が身についてからでも遅くはないのではないか.

また,2014年に日本生化学会年会大会でとられた発表形式についてのアンケートでは,英語での発表のみを希望する人は5%であり,80%は日本語・英語のどちらかを選択できることを希望していた.具体的な意見としては,年会を国際学会とするのであれば話は別だが国内学会という位置づけを考えると発表形式は日本語にすべきという趣旨の意見が多くみられた.このような結果からわかるように学会のすべてのセッションを英語化するのは避け,必要に応じて英語でのセッションをとり入れるのが現状では最良ではないかと思う.一方で各学会の英語化の進め方について生物学分野の学会にしぼって調べてみたところ,日本分子生物学会や日本細胞生物学会など多くの学会で英語でのセッションがとり入れられていた.その他ポスターやスライドの言語は英語で記載し,発表言語を日本語か英語のいずれかから選択できる学会も多かった.発表言語を選択するという方式は,発表者の英語力に合わせた優れた取り組みの一例であると思う.

本稿では国内学会の英語化の利点と欠点およびその動向を論じてきた.学会を学生が研究者として成⾧する場として考えると,母語による議論の基礎を養いつつ英語による議論にも触れる場とするのが良いように思う.国内学会に英語をどの程度取り入れるかについて検討の際は,学生・若手研究者のひとつの声としてぜひ参考にしていただきたい.

北 悠人,赤瀬太地(生化学若い研究者の会 キュベット委員会)

※実験医学2020年10月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2020年10月号 Vol.38 No.16
骨格筋の維持機構を暴き、サルコペニアに挑む!

上住聡芳/企画
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