[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第134回 サイエンスの裾野から漫画で叫ぶ

「実験医学2021年8月号掲載」

SNSにて発表後,さまざまな方面から反響をいただいた漫画・イラスト

「もっとこういう漫画,ありませんか?」東京ビックサイトで行われていた世界最大の同人誌即売会であるコミックマーケット(略称:コミケ)でかけられたこの言葉がすべてのはじまりだったのだと今は思う.本稿では,私が描いている漫画が思わぬところで研究現場の面白さを伝えるアウトリーチ活動につながった経緯から,漫画によって広がるサイエンスコミュニケーションの可能性についてお話ししたい.

私の本業は生命科学系ラボにて研究補助を行うテクニシャンであり,日々ピペットを握り,バイオ系実験業務を行っている.そして,オフの日にはペンを握り,研究現場を舞台とした実録漫画を描いている.職場をテーマに漫画を描くことにしたのは,論文として後世に残らないような研究現場の様子を自分なりに作品として綴ってみたいと常々思っていたためである.

漫画をまとめた同人誌をはじめてコミケで頒布したとき,研究にかかわりのない一般の方々が参加者の大半を占めるこのイベントで興味をもってもらえるか不安を抱いていた.ところが実際は予想に反し,冒頭のような言葉をたくさんいただき,同人誌の頒布数も本を出すごとに増えていった.漫画の内容的にバイオ系の研究者や学生,テクニシャンなど同業者には楽しんでもらえるかも?とは予想していたが,意外なことに大学の事務職員,研究室付きの秘書,研究用資材を卸す理化学機器メーカーの営業など,研究周りの職業に従事する方々にも強く興味をもっていただいた.とある研究所で事務職に就いているという男性は「研究現場でどのようなことが行われているか興味はあるけれど,なかなか知る機会がない.だから,実際の研究現場について描いた漫画を読んでみたかった」とのことで,私の漫画が些細であっても,現場を知るきっかけとなれたのであれば嬉しい.

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また,最近ではSNSでバイオ系研究現場のあるある― 例えば,実験でよく起こる失敗や悩み,サンプル整理などで活用できる便利な手法などを漫画やイラストにして発信しており,そちらも大きな反響をいただいている.漫画に対する研究現場からの共感を目にした一般の方々が「研究現場でも自分の職場と同じようなことが起こっているのだな」とさらなる共感を得ることで,研究やサイエンスを身近に感じてもらうよい機会にもなっているのではないだろうか.

より多くの人々に興味をもってもらえるようなキャッチーさや,気負わずに情報へアクセスできる手軽さ,さらに科学的知見を正確にわかりやすくトランスレートし研究の魅力を伝えること――「漫画」という情報媒体はこれらを両立できる可能性を十分にもっている.そして,漫画による情報発信は一般の人々にサイエンスを啓蒙できる点だけでなく,研究をサポートする人々や研究者へ良質な情報を気軽に伝達できるという点においても,大きな可能性を秘めている.

漫画を起点として,研究を取り巻く人々の横のつながりを強め,内から外へとじんわりとアウトリーチの範囲を広げていく.これも1つのサイエンスコミュニケーションの形ではないだろうか?

私はこれからも雇用がある限り,サイエンスの現場から漫画で叫んでいきたいと思う.近くへも遠くへもよく響いていくように.

一久 綾〔筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)〕

〔宣伝〕Twitterで作品を発表しておりますので,よろしければご覧ください.(Ayane:@yuruyuru777)漫画やイラストのお仕事を募集しております!

※実験医学2021年8月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2021年8月号 Vol.39 No.14
どうして自分だけ狙われる?選択的オートファジー
既成概念を覆す分子機構と生理作用

小松雅明/企画
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