[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第135回 コロナ禍における若手同士のつながり

「実験医学2021年9月号掲載」

いま,コロナ禍で若手研究者間のつながりが失われつつある.昨年春あたりからほとんどの学会が中止あるいはオンライン開催となった.それにより,ポスター発表の場で演題から逸れた話題で盛り上がる,名前は認識していた研究者と会場で語り合うなどのこれまでの学会でみられた自然な交流は影を潜めてしまった.若手研究者にとってそういった場は他の研究者とのつながりをつくる絶好の機会であり,また特に大学院生にとってはキャリアデザインの面や精神の安定を得る面でも非常に重要である.

こういった状況のなかで縁あって第1回蛋白質科学会若手の会研究交流会運営の話をいただき,若手研究者同士の交流の機会を設けたいとの思いで代表を務めた.当初は富山での開催を予定していたが状況をかんがみてオンライン開催に変更したうえ,蛋白質科学会単独でははじめての若手交流会であったにもかかわらず,大学院生から博士研究員や教員,企業研究員まで60人以上の若手研究者の方々に参加いただいた.蛋白質科学会ニュースレターに掲載した開催報告もご覧いただきたい1)

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本交流会では,招待講演として前年度に蛋白質科学会若手奨励賞優秀賞を受賞された金沢大学・ 荒磯裕平先生をお招きし,ご自身の研究に加え若手研究者に向け進路選択についてご講演いただいた.荒磯先生はご講演のなかで,キャリアのなかで幾度もあった転機にはすべて「人とのつながり」があった,と強調されていた.

また,企画としてポスター発表とコロナ禍におけるキャリアのディスカッションを行った.これらの企画については班分けを行い進行したことで,オンラインでのポスター発表特有の堅く重苦しい雰囲気ではなく実際にポスターの前で談笑を交えつつ話し合うような雰囲気を再現できた.閉会後に設けた自由懇親会では参加者同士が親睦を深めるだけでなく,博士進学を考える学生が博士課程の学生に進路相談をする場面もあり,コロナ禍で失われた若手間のつながりが少しは補われたように感じた.こういった場を来年以降も継続して設け,少しでも大学院生をはじめとした若手研究者の助けになれたらと思っている.

一時は研究室への立ち入りも制限されたこのコロナ禍で,相談できる先輩や同じ道を歩む同期が少ないと,研究およびキャリアへの不安は計り知れない.実際に参加登録時のアンケートでは進路などについて不安な声を多くいただいたが,参加後には「研究の進捗が芳しくなく不安だったが同じ立場の研究者と話せて奮起できた」,「研究室内に他の博士課程の学生がいないのでたいへん有意義な時間を過ごせた」などの感想をいただいた2).このコロナ禍において若手の会は有意義な交流の場であるため,もし周りに博士進学を考えている学生,研究室に同期が少ない学生がいればぜひ若手の会への参加を,願わくは蛋白質科学会若手の会を勧めてほしい.

謝辞

本交流会は大阪大学・佐野結実,名古屋工業大学・杉浦雅大,北海道大学・石坂優人,大阪市立大学・高橋大地,東京工業大学・三輪つくみ,富山大学・帯田孝之先生,東京大学・伏信進矢先生,北海道大学・姚閔先生が運営を務めました.特に先生方は年会の運営でご多忙のなか若手の会の運営にもお力添えいただき,心より御礼を申し上げます.また,発足直後の蛋白質科学会若手の会の広報をサポートしてくださった生化学・分子科学・細胞生物若手の会,特にオンライン形式に変更する際に運営ノウハウをご共有くださった生物物理若手の会には深く感謝いたします.

  1. 蛋白質科学会ニュースレターVol.21 No.3
  2. 第1回蛋白質科学会若手の会研究交流会HP(参加者アンケート結果掲載)

田中達基(東京大学大学院理学系研究科,蛋白質科学会若手の会)

※実験医学2021年9月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2021年9月号 Vol.39 No.14
空間トランスクリプトーム
細胞内局在から組織構成まで、遺伝子発現の位置情報がわかる!

沖 真弥,大川恭行/企画
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