[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第137回 理工系女子はどこへ消えた?―STEM分野のリーキーパイプラインとは―

「実験医学2021年11月号掲載」

今年,私は悲願であった博士の学位を取得し,ようやく研究者としてのスタートラインに立った.期待で胸膨らませたいところではあるが,本当に研究者として生き続けていけるのか,実際は不安でいっぱいである.特に女性は研究者としてのキャリアを形成・継続することは大変である,とアカデミアを生き抜いてきた諸先輩方は口を揃えて言う.さらにその不安を煽るのが,わが国の現状である.2020年の国内の女性研究者比率は16.9%と,OECD加盟国のなかでは圧倒的に最下位である1).そのなかでも,STEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)における研究者のジェンダーバランスは特に深刻な問題である.2019年の女性研究者比率は,看護・薬学(53.6%),人文科学(36.6%)に対し,理学(14.6%),工学(11.1%)と,分野間での不均衡が目立つ2)

さらに,女性比率は助教,講師,准教授,教授と上位職になるほど低下する.このようなキャリアパスを辿るごとに数が減少する現象を,パイプの水漏れに喩えて「リーキーパイプライン」とよぶ(「ガラスの天井」や「壊れたハシゴ」といった表現もある).その理由として,妊娠,出産,育児,介護などのライフイベントでアカデミアトラックを離脱し,そのまま戻ってこられない女性研究者が多いことが示唆されている.このような女性研究者を取り巻く現状は,近年さまざまな場所で活発に議論され,女性研究者の活躍推進活動はさかんに行われるようになってきた3).しかし見落としがちなのは,このリーキーパイプラインは初等教育の段階からはじまっていることである.

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小学校では,理科や算数などの教科の好き嫌いや習熟度に,男女差はほとんどみられない.しかし,中学校,高校と進学するにつれて理数系教科に興味をもつ女子はしだいに減少し,文理選択の時点でくっきりと男女差として現れる.「男子は女子よりも数学や科学の能力が高く,STEM分野のキャリアは男性の領域である」というジェンダーのステレオタイプが,女子の理数系教科への関心に,否定的な影響を与えていると考えられている.日本では,教育機会におけるジェンダーギャップはほぼ存在しないと信じられているが,実際にはさまざまな場面において,「男子は」「女子は」といった無意識のジェンダーバイアスが根強く残っている.有効なダイバーシティ推進を思索するためには,ステレオタイプに囚われないSTEM教育の見直しも忘れてはいけない.

現代までのジェンダー不均衡はこのようにして,初等教育から高等教育,そして就職後に至るまでのさまざまな段階において,男性よりも多くの女性がSTEM分野のパイプラインから漏れていった結果である.中学校・高校で科学探究活動に精を上げていた理工系女子たちが,大学進学時には全く別の分野に進むことや,学位を取った後に別の業界に就職することは,全く珍しいことではない.彼女たちが本当にやりたいことを見つけた結果であるならば,喜ばしいことではあるが,日本のSTEM業界において損失であることに間違いはない.

学問を極めることに本来ならば,性別なんて関係ないとは思うが,女性である以上,ライフイベントとキャリアを天秤にかける場面に必ず直面する.私個人でできることは少ないが,STEM分野に関心のある後輩たちが,思う存分サイエンスを楽しめるような環境づくりができるように精一杯努力したいと思う.タイトルはスペンサー医学博士の世界的名著より.

  1. OECD『Main Science and Technology Indicators』(2021)
  2. 内閣府『研究分野における男女共同参画』(2020)
  3. 日本学術会議第三部理工学ジェンダー・ダイバーシティ分科会『報告:理工学分野におけるジェンダーバランスの現状と課題』(2020)

吉田彩夏(武庫川女子大学薬学部ゲノム機能解析学研究室)

※実験医学2021年11月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2021年11月号 Vol.39 No.18
ヒト発生に挑むオルガノイド
パターニングの原理から創出する複雑な三次元組織

髙里 実/企画
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