[Opinion―研究の現場から]

本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第177回 自分で世界を狭くする:研究会開催のすゝめ

「実験医学2025年3月号掲載」

イッツ・ア・スモールワールド.どんな業界であっても,知り合いと知り合いが意外なところでつながっていて,それが新たな不思議な出会いをもたらすことがある.世界が『狭い』からこそ起こったそんな出会いはわれわれの世界を『広げて』くれ,研究の幅をも広げてくれることがある.科学技術の多様化による分業化が進む現代の自然科学では,効率よく共同研究パートナーと出会うことが長生きのコツであろう.そこで,放っておいてもじゅうぶん狭いこの世界を,思い切って自分でもっと狭くしてみるのはどうだろう.その一助となる手段として,研究会開催をお勧めしたい.

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テーマを定めた研究会ももちろん重要だし楽しいのだが,予期しないイノベーションを生み出す可能性を秘めているのはやはり「何かの属性やグループを軸として,テーマを定めず雑多に集まる研究会」だ.例えば,部局内・部局間交流などで活用しやすい.筆者も学生時代,京都大学のさまざまな部局に散らばっていた植物系研究者が一同に集い研究の話をする「京大植物科学縦横無尽の会」でさまざまな先生方・先輩方や同年代研究者と知り合い,そのネットワークは今でもかけがえのない財産となっている.この原体験に基づき,一昨年着任した北海道大学においても,農学部の佐藤昌直さんや産総研北海道センターの礒田玲華さんと一緒に,道内を中心とした生物系研究者の研究交流会「北海道バイオ“Mix-up”」(https://bit.ly/4fFsZUA)の運営にかかわらせていただいている.理学部で植物微生物間相互作用を研究する人間が薬学部で抗がん剤の研究をする人間と出会い議論するなどというのは,「北海道」というキーワードだけで集まった研究会だからこその出会いであり,筆者にとっても研究室の学生たちにとっても,貴重で刺激的な出会いの場となった.PI同士が知り合いになるだけでなく学生同士で交流が進み,また研究会を定期開催してつながりを強固にしていくことで研究室間の壁はどんどんと薄く低くなっていく.最初は参加研究室の数が少なくても,なんだかあいつら楽しそうだなと少しずつメンバーが増えていったら,それはなんとも素晴らしいことではないか.前述の「京大植物科学縦横無尽の会」は昨年で20回目の開催を迎えたそうだ.われわれの「北海道バイオ“Mix-up”」も,世話人が変わっても脈々と続いていく北大の風物詩になることを祈っている.

最後に,開催に向けた具体的な方法論を少しだけ.まずはとにかく味方を見つける.同じ志をもつ仲間を探すのだ.そのなかには数名くらいは,一緒に世話人をやってもいいという人がいるかもしれない.仲間が増えると仕事も減る.後援企業を集めるのが上手な人や,妙に顔の広い人,当日の場回しが上手な人,事務処理が異様に早い人,大学事務に根回しができる人.多くの人が集まればそれだけ開催もスムースだし,アイディアも増える.ちなみに,こういう会は年長者がトップダウンで引っ張るよりも,若手や駆け出し研究者が主体となってボトムアップで『勝手に』やるのが一番よい.あとはエイッと日程と場所を決めて,「絶対に発表してくれる人」を何人か口説き落とす.最初は「友達の友達」だけでもいい,とにかくまずは開催することが大事だ(内輪感が出過ぎないように注意).懇親会参加費の免除や学生ポスター賞・発表賞の設定など,学生の参加を促すしくみも忘れずに.そして何より,当日を盛り上げること.とにかく世話人が楽しめば,なんとなくみんなも引っ張られて楽しくなるものだ.ポジティブな感情を残して来年また参加してもらえるよう,全力で楽しむことがなによりの秘訣だ.日本中で,多様な研究者が楽しそうに縦横無尽にMix-upする姿を夢想して,本稿の終わりとしたい.

中野亮平トーマス(北海道大学)

※実験医学2025年3月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2025年3月号 Vol.43 No.4
特集1:胎盤形成と母児連関 発達を運命づけるメカニズム/特集2:次世代のmRNA創薬へ いま知りたい基盤技術

有馬隆博,位髙啓史/編
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