[Opinion―研究の現場から]

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本コーナーでは,実験医学連載「Opinion」からの掲載文をご紹介します.研究者をとりまく環境や社会的な責任が変容しつつある現在,若手研究者が直面するキャリア形成の問題や情報発信のあり方について,現在の研究現場に関わる人々からの生の声をお届けします.(編集部)

第176回 ジュニア研究者を育てて手作りの科学館を研究機関に

「実験医学2025年2月号掲載」

手作り科学館 Exedraは,千葉県柏駅前の全6室2階建ての空きアパートを学生らが自ら工事して2018年に開館した小さな施設だ1)〜3).スタッフが自ら集めた化石や骨格標本などの資料を展示し,実験や工作などの体験を提供するとともに,若手研究者らが専門分野を紹介する講座などを開催してきた.

科学館は博物館の一種であり,博物館には,資料の収集と保存,調査と研究,展示と教育の3つの機能があるとされている.Exedraは調査・研究機能の充実をめざして,2022年4月から,小中学生を研究者に育てる「研究部」の活動を開始した.初年度は10人,2年目は24人,3年目の現在は12月末時点で57人の部員が毎月2回,活動している.小学2年生はプレコース,3年生以上はトレーニングコースから活動を始め,ノートの取り方や実験器具の使い方,研究に向き合う態度や考え方などを身に着ける(写真).トレーニング修了後は,与えられた研究テーマに取り組みながら研究を体験するステップアップコース,さらに自ら問いを立てて自立して研究するチャレンジコースへと進む.ステップアップ以上のコースでは,鳥の骨の化石化に挑戦してその初期のプロセスを再現したり,深海魚を解剖してマイクロプラスチックを発見したり,彗星の分光観測に取り組んだり,植物から取り出した繊維で紙を作り,自作のインキで紙とインキのレシピを自ら印刷したりと,多様な研究を行い成果をあげつつある.

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研究部員たちの研究成果は紀要論文にまとめて,試料や標本などとともに館内に展示している.年度末には発表会を行うほか,マスメディアを通じた情報発信も積極的に行い,科学との接点の少ない方々にも情報を届けようと努力している.

夏や冬には「理科の修学旅行」と題して海や山などのフィールドを訪れ,化石発掘や植物・昆虫採集など,研究材料や展示資料の収集にも取り組んでいる4)

これらはいずれも,大学院での教育をモデルに設計している.一部には民間の財団の助成金や,実験・分析機器や試料・標本などを含む有志の寄付を活用しているが,基本的には民営科学館の事業収入で運営している.積極的な情報発信を通じて,科学の基礎研究が応援される社会を実現したいと考えている.資金や宣伝の面はもちろん,人材面での支援は欠かせない.同じ目標を共有できる研究者や学生をはじめとする人材の参画を歓迎したい.

文献

  1. 羽村太雅:みちを切り拓く科学館 ―地域との連携と研究者の育成―.サイエンスコミュニケーション,14:6-7(2024)
  2. 羽村太雅:ないのなら 作ってしまえ 科学館―手作り科学館 Exedra 5年間のキセキ.日本の科学者,58:46-47(2022)
  3. 羽村太雅:空きアパートをDIY改修した科学館の設置.サイエンスコミュニケーション,7:38-39(2017)
  4. 羽村太雅:科学コミュニケーションの場としての自然体験活動とその学際的意義.江戸川大学紀要,29:71-78(2019)

羽村太雅(手作り科学館Exedra)

※実験医学2025年2月号より転載

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本記事の掲載号

実験医学 2025年2月号 Vol.43 No.3
特集1:免疫老化を探る 獲得免疫の衰えと暴走を理解し機能再生へ/特集2:分子糊 革新の創薬モダリティ

濵﨑洋子,田中 実/編
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