Chapter4 出版をつかみとる:原稿,ジャーナル,投稿①:ネイティブが教える英語論文・グラント獲得・アウトリーチ 成功の戦略と文章術

ステップ4:
ジャーナルが掲載する論文のタイプに合わせて研究デザインの枠組みを決める

研究を論文にまとめようとする前に,まず論文にはどのようなタイプのものがあるか確認しておこう.そして,投稿を考えているジャーナルが,書こうとしているタイプの論文を受け入れているのか確かめておく必要がある.メンターたちは,論文にはさまざまなタイプのものがあり,それぞれにおいてどのように文献検索をすればいいか,各セクションはどのようにまとめたらいいかといったことは,誰でも知っているものだと思っている.しかしこの思い込みは,医学・生物学の世界のいたるところにはびこっている,鶏と卵の問題から生まれるものである.教員や研究者は,チームメンバーや学生は論文を書くうえでのルールを当然知っていると期待しているが,そのせいで,誰かがしっかりと論文のタイプやその構成について教える必要がある,という事実が見落とされているのだ.そうこうしている間に,チームメンバーや学生たちは,初稿を間違った方法で書いてしまい,そのことについて厳しい叱責を受け,そして,(いい手本などほとんどないにもかかわらず)手本を求めてジャーナルを読むことになるのである.学術論文の良し悪しは,トルストイが『アンナ・カレーニナ』の中で書いた幸せな家族の特徴と同じようなものだ.どんな学術論文も,決まった構成と修辞的な構造を持っているという点では似ているのである〔そして,稚拙な論文を読んだ時には,トルストイの書いた「幸福な家庭はどれも似たものだが,不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」(訳注:『アンナ・カレーニナ(上)』中村 融/訳,1989年,岩波書店より引用)という有名な一節が思い出されることだろう.悪い論文にはそれぞれに違った悪いところがあり,引用されている文献からパラグラフ構成,文章のぎこちなさまで,ありとあらゆる理由が存在するのである〕.まだ誰も最初の1語を書きはじめていないうちに,共同研究者やラボがどのようなタイプの論文を書こうとしているのか,チーム全員が理解していることを確かめておこう.

ステップ5:
論文のタイプに合ったイントロダクションをデザインする

総説のイントロダクションは,ランダム化比較試験のものとはまったく異なるものだが,メタアナリシスとシステマティック・レビューのイントロダクションは,互いにとても似たものになる.しかし,若い研究者たちと一緒に仕事をしている大学教員がよく言うことであるが,イントロダクションは,書き手がもっとも目立った過ちを犯してしまうセクションなのである.ある研究員などは,小児の胃不全麻痺の臨床診断に関する総説を,基本的な胃の解剖学的特徴を読者に紹介するところからはじめてしまったり,また医師免許と博士号を持っている別の研究者は,滲出型加齢黄斑変性のランダム化比較試験の結果を報告する論文を,11パラグラフもあるイントロダクションではじめてしまっている.以下では,さまざまなタイプの論文におけるイントロダクションについて,パラグラフの数や内容を詳しく考えてみる.

イントロダクションにおけるレトリックを理解する

まず,修辞的観点から,イントロダクションの目的とはいったい何なのか,ということを理解しよう.メタアナリシスやシステマティック・レビュー,症例報告や症例集積研究,そして臨床試験では,イントロダクションの長さは1〜5パラグラフになる.対照的に,質的研究のイントロダクションでは,パラグラフの数は1〜11と幅広く,パラグラフによっては,研究でフォーカスしていることがらについて,既存の文献の問題点を深く掘り下げていく場合もある.また,ものによっては,研究の重要性に関する記述や,過去の研究の限界に関する大まかな説明,そして提示する仮説といったものだけを,短い1つのパラグラフで端的に述べるだけで済ましてしまうこともある.論文のタイプを問わず,イントロダクションでは,論文で述べようとしている課題の重要性を揺るぎないものにしておく必要があるのだ.そのためには,次のようなものを利用するといい.

  • 発現率,発生率
  • 治療にかかるコスト
  • 治療を行わないことによってかかる長期的なコスト
  • 疾患の原因解明につながるメカニズム
  • 症状と疾患の間にあるかもしれない因果関係
  • 一見関係なさそうな疾患同士の間にあるかもしれない因果関係
  • 疾患と患者のQOLの間にあるかもしれない因果関係

さらにイントロダクションでは,既存の文献では触れていないことや,研究の限界についてもはっきりとさせておく必要がある.このような情報の欠如や不確かさは,過去の研究が違うことにフォーカスしていたものであるために生じることもしばしばであるが,それよりも,検出力が弱いことや,リスクの分類や推定方法の間違い,矛盾した所見があるなど,方法論的な間違いがある場合が多い.さらに,研究を発表する以上は,部分的にでもメカニズムを理解することにつながるものであるか,スクリーニング,診断,治療,標準的治療やケア,公共政策に直接的なインパクトを与えるものでなければならない.総説やシステマティック・レビューであれば,トピックに関する既存の知識を網羅しながら統合・整理することによって,読み手の理解を促したり,診療に影響を与えたりするものでなければならない.標準的な診断,治療,またはケアについて調べたランダム化比較試験やメタアナリシスであれば,それが出版されるのは(a)従来の考え方をくつがえしてしまう場合,(b)疾患・治療とその他の状況との間に新たな関連性を発見した場合,(c)現在の標準的な診断,治療,ケアに関する議論が続いていたりそれらが十分でなかったりする場合,のいずれかに当てはまる時だけである.

どんな論文であっても,イントロダクションのはじめのパラグラフでは,論文の中で検討する課題の重要性を揺るぎないものにしておかなければならない.そのためには,ほとんど理解されていないメカニズム,明確でない因果関係,疾患の高い発生率,疾患とその治療に関する財政的コスト,診断や治療に関する問題点,疾患の死亡率や罹病率といったものに着目すればよい.査読者や読者は,その論文を読むかどうか,アブストラクトを読んでから決めることがほとんどであるが,それでもなお,冒頭のパラグラフには,疾患の重要性や取り組むべき課題について明示されていることに加えて,メカニズムに関して理解が足りていない部分や,診断や治療法の不十分なところ,そして財政的コストや医療費についても語られていることを期待しているのである.さらに,患者数の多さや患者の症状の重篤さ,コスト面でのインパクトを述べることによって,主張が強力なものになり,論文の重要性を訴えることができる.次の例は,エストロゲンとプロゲスチンの併用投与が女性の脳卒中リスクに与える効果を調べたランダム化試験の論文であるが,冒頭2文のしっかりとした主張によって,早くも研究の重要性が揺るぎないものとなっている.

Stroke is a major health issue for women. Cerebrovascular diseases are the third leading cause of death in the United States and the leading cause of adult disability. (Wassertheil-Smoller, Hendrix, Limacher et al., 2003)

脳卒中は,女性にとって主要な健康上の問題の1つである.米国では,脳血管疾患が死因の第3位,成人における身体障害の原因の第1位となっている.

また,次に示したのはあるシステマティック・レビューの冒頭の文であるが,先ほどの例と同様に,糖尿病患者数の多さや糖尿病網膜症の深刻さに焦点を当て,米国における失明のもっとも主要な原因となっていることを指摘している.

Diabetes Mellitus affects 200 million people world-wide, including 20 million in the United States alone. Diabetic retinopathy (DR), a specific microvascular complication of diabetes, is the leading cause of blindness in working-aged persons in the United States. (Mohamed, Gillies, and Wong, 2007)

糖尿病は,全世界で2億人が罹患し,米国だけで2,000万人が侵されている疾病である.糖尿病網膜症(DR)は,糖尿病に特有の微小血管合併症の1つで,米国の生産年齢の人たちにおける失明の主要な原因となっている.

症例集積研究の場合は,臨床試験よりも力強い書き出しにすべきである.なぜなら,このタイプの研究では,症例の少なさや報告するデータを選別している可能性を排除できないため,編集者がはじめから先入観を持って原稿を読むからである.The Lancet Neurology誌に掲載された次の症例集積研究の書き出しについて考えてみよう.

Bacterial meningitis is a serious and life-threatening disease. The estimated incidence is 2.6–6 per 100,000 adults per year in developed countries and is up to ten-times higher in less developed countries. Streptococcus pneumoniae is the leading cause of bacterial meningitis in adults. Case series on adults with pneumococcal meningitis have been published previously. However, these studies were mainly retrospective. In this prospective cohort study we provide a detailed description of the clinical course, the spectrum of complications, prognostic factors, and outcome in 352 adults with community-acquired pneumococcal meningitis. (Weisfelt, van de Beek, Spanjaard et al., 2006)

細菌性髄膜炎は,生命に危険の及ぶ重篤な疾患である.先進国における推定発生率は,成人10万人あたり年間2.6〜6人であるが,途上国ではこの10倍に及ぶとされている.成人における細菌性髄膜炎の主要な原因は,Streptococcus pneumoniae(肺炎球菌)であり,過去には,成人の肺炎球菌性髄膜炎に関する症例集積研究が発表されている.しかし,それらの大部分は後向き研究であった.本前向きコホート研究では,市中感染の肺炎球菌性髄膜炎を発症した成人352例について,臨床経過を詳細に記述し,合併症の種類と頻度,予後因子,転帰を報告する.

ここでは,冒頭の文で細菌性髄膜炎の重要性がしっかりと表現されており,読む価値のある研究であると読み手に感じさせている点に着目しよう.そして,続く文では,先進国では発生率が低いものの,途上国では高い状況にあることに触れ,研究する価値のある課題であることを訴えている.さらに,この端的な1パラグラフのイントロダクションは,過去に発表された研究の弱い部分や,診断・治療法の削除や変更をはっきりさせておくという役割も果たしており,これはいかなる場合でもイントロダクションには必ず書いておくべきことである.また,たいていの場合は,2番目のパラグラフで有名な研究や最新の文献を紹介するものだが,このイントロダクションでは,12の文献を引用して過去の研究を示している(上の例文では簡潔さのために省いている).このように簡単な引用のみで過去の研究を示す方法は,症例集積研究では有効であり,特にその文献における方法論的な弱みを著者が指摘しようとする場合には効果的である.ここで例として示した論文では,後向き解析が主体であるという既存の文献における欠点を,著者が明確にしている.後向き解析では,症例の統計解析においてバイアスが生じやすいうえに,前向き解析では多くの場合取り除くことができるような交絡要因も存在する可能性があると考えられているからだ.さらに,この論文の著者たちは,強調位置に仮説を配置するとともに,予後因子,合併症,転帰といった研究の一次的な成果について一通り紹介し,集積した症例数でイントロダクションを締めくくっている.また注意すべきこととしては,仮説は常に1文で書くべきであり,複数の文にわたって書いてはいけない.仮説が1つしかないにもかかわらず,複数の仮説があると読み手に無意識に予測させてしまうからである.以上をまとめると,第1に,仮説はイントロダクションの最後の文にくるようにすること(Taylor, 2011; Zwaan, 1994),そして第2に,仮説は1文の中で述べ,文をまたいで書かないことを覚えておこう(Higgins, Burstein, Marcu et al., 2004; Kintsch, 1988; Lorch and Lorch, 1985; Murray and McGlone, 1997; Ritchey, 2011; Therriault and Raney, 2002).(強調位置や仮説を配置すべき場所については,Chapter 25文章に一貫性を持たせる」参照)

予告的主題文

イントロダクションが複数のパラグラフで構成される場合(ほとんどがそうであるが),最初のパラグラフには,予告的主題文(preliminary thesis)を入れた方がいい.これは冒頭のパラグラフの終わりに書かれる1文のことで,研究の焦点を読み手にはっきりと意識させるものである.この文は,仮説よりもかなり一般化された内容になるが,仮説を提示する前のパラグラフの理解や記憶を助ける貴重な手がかりとなるものだ.仮説はイントロダクションの最後の文に書かれるものであるため,読み手にとっては,論文の冒頭に近い位置に研究のメイントピックをまとめた文が必要なのである.このような予告的主題文は,プライミング効果によって読み手の理解力と記憶力にはたらきかけることに加えて(Graf and Shacter, 1985),冒頭パラグラフの最後の文であるがゆえに,新近効果のおかげでより記憶に残りやすいのである(Brown, 1982; Murdock, 1962; Spiro, 1980; Yore and Shymansky, 1985).慢性腎臓病のスクリーニング結果を用いて重症の心血管疾患のリスク因子を決定することを目指したコホート研究から引用した次の2つの文について考えてみよう.冒頭のパラグラフの最後に,この研究の著者は次のように書いている.

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著者プロフィール

イエローリーズ・ダグラス(Yellowlees Douglas, PhD)
フロリダ大学のビジネススクール(Warrington College of Business)の准教授で,マネージメントコミュニケーションを教えている.また,以前には同大学のClinical and Translational Science Instituteで教員を務めた経歴も持つ.
マリア・B・グラント(Maria B. Grant, MD)
アラバマ大学で,優秀な眼科学の研究者に贈られるEivor and Alston Callahan記念眼科学寄付講座の教授.30年にわたって医学研究の実績を積み重ね,200を超える査読付き論文を発表し,12の特許を持っている.
ネイティブが教える英語論文・グラント獲得・アウトリーチ 成功の戦略と文章術
ネイティブが教える英語論文・グラント獲得・アウトリーチ 成功の戦略と文章術
Yellowlees Douglas,Maria B. Grant/著,布施雄士/翻訳
2020年07月01日発行
英作文のプロと研究のプロが, 心理学と神経科学に基づいた,成功の可能性を高める書き方を伝授.プライミング効果,初頭効果,新近効果,フレーミング効果などを駆使した,読み手の心をつかむメソッドが身につく!

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