テツヤ、留学生活はどうだい。

Kyota Ko,Simon Gillett(東京工業大学英語コミュニケーションプログラム 講師/ベルリッツ・ジャパン)

本コンテンツは,実験医学同名コーナーからの転載,2014年11月に発行された単行本「理系英会話アクティブラーニング」シリーズ(発表・懇親会・ラボツアー編スピーチ・議論・座長編)からのスピンアウトとなります.イギリス留学中のテツヤが実験医学onlineにも登場!

第10回 研究者なら使いこなせる?エレベーターピッチ

こんにちは,最近家にいるときは発話練習ばかりしている,テツヤです.じつはこの間,今までの人生で一番悔しい思いをしました.いつの日かリベンジしてやる…!そう心に決めて取り組んでいるのが,エレベーターピッチの練習です.

※エレベーターピッチ:エレベーターの中で自分や自分の事業を認めてほしい相手と居合わせたときなど,短時間で簡潔に売り込みたいものの魅力を伝える技術.
 

先日,学会でハリントン教授がアメリカの某大学の著名な教授と僕を引き合わせてくれたんです.自分の分野において最高峰の研究を行っている学者と話す機会に緊張もあったのかもしれません.結果は,最悪でした.

衝撃の一言「で,なにが言いたいの?」

学会初日の立食パーティーでのこと.サリバン教授はがん研究の大御所.そんな方から

I hear you’re doing well at Dr. Harrington’s. What are you working on?
君,ハリントン教授のところでがんばっているそうだね.どんな研究をしているんだい?

なんて聞かれて,舞い上がった僕は,思いつくまま自分の研究がすごいと思うところをぜんぶ話そうとしました.

「Um... Let me see. Well, I thought it’d be great if the mechanism for metastases was made clear, so I started research during college. I made an assumption that there should be a gene that has to do with metastases, narrowed down candidates, and then went ahead and started testing the remaining candidates at random, and then I luckily came across a suspect early on. Oh, yes. I used bioluminescence to identify metastases, and actually this led to contributing to the improvement of bioluminescence technology. And...」ここまで話したところで,サリバン教授が少しイライラした様子だったことにハッと気づいたのですが,時すでに遅し.サリバン教授は僕の言葉を遮って

So what are you getting at?
で,なにが言いたいのですか?

と一言.

「Um... well, what I’m trying to say is …いえ,あの…なにが言いたいかというとですね」となんとか立て直そうとしているうちに,サリバン教授は落ち着いた口調で

I’d suggest that you paint a clear picture of the message you want the other person to take home in your mind, and then speak. You’re smart. I know you can do it.
君はもう少し,相手に受けとってほしいメッセージをはっきりイメージしてから話したほうがいいね.頭はいいんだから,できるはずだよ

と仰りました.

じつは研究者に向いている? エレベーターピッチ

ハリントン教授がせっかく用意してくれたチャンスを生かせませんでした.しかも,自分が一番理解しているはずの研究のことをうまく伝えられなかったのが悔しくてたまりませんでした.だから次こそはうまく伝えられるように練習することにしたんです.30秒くらいの短時間で自分の研究の魅力を語れるようになるために,エレベーターピッチを!

やってみてわかったのですが,自分の研究を端的に伝えることって,少し研究に似ているかも.だって,相手が理解している状態をイメージして,そこから逆算して,どういう手順を踏めばその状態にたどりつくかを考えるんですもの.自分の仮説を証明するために実験を設計するみたいでしょ.

The objective of my research is to find out whether metastases can be prevented by knocking out a causative gene. I have already found a gene that seems to influence the probability of metastases. Now I am experimenting with knock-out mice to see if they can survive lacking that particular gene. I believe this research will lead to a radical change of cancer treatment and improve the quality of life of cancer patients significantly in the future. Please shoot me an email if you find my research interesting. My name is Tetsuya Iizuka and here’s my card.
私の研究の目的はがんの転移能に関する遺伝子の発現抑制によって転移を防ぐことが可能かどうか突き止めることです.以前の研究ですでにがんの転移能獲得に中心的な役割をはたす遺伝子を同定しています.現在はその遺伝子をノックアウトしたマウスにおいて、本来の生体での遺伝子の機能を解析しています.この研究は将来的にがん治療を抜本的に変えていき,がん患者の生活の質を大きく向上できると信じています.もし私の研究にご興味あれば,ぜひメールをください.私は飯塚テツヤと申します.こちらが私の名刺です

この1カ月,毎晩寝る前に5回くり返していたので,もう暗唱できますよ.今は説得力と自信が伝わるように,ハキハキと,力強いイントネーションで話す練習をしています.待っていろ,第2のサリバン教授!

(( Listening! )) 相手の発言が要領を得ない場合に使えるフレーズ

  • So what are you getting at?
    つまりなにが言いたいのですか?
  • So what are you trying to say?
    つまりどういうことですか?
本連載の掲載された実験医学誌もぜひご一読ください!

実験医学 2016年5月号 Vol.34 No.8
国民病“腎疾患”治療の光が見えてきた!腎臓のサイエンス
発生・三次元組織再生と機能破綻のメカニズム

西中村隆一/企画
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