Kyota Ko,Simon Gillett(東京工業大学英語コミュニケーションプログラム 講師/ベルリッツ・ジャパン)
本コンテンツは,実験医学同名コーナーからの転載,2014年11月に発行された単行本「理系英会話アクティブラーニング」シリーズ(発表・懇親会・ラボツアー編,スピーチ・議論・座長編)からのスピンアウトとなります.イギリス留学中のテツヤが実験医学onlineにも登場!
テツヤです.寒い季節は温かい飲み物が恋しくなりますね.この間,同僚3人が僕のフラット(日本でいうアパート)に遊びに来てくれました.自転車で来てくれたみんなは素手でハンドルを握っていたせいで手が見るからに冷たそうでした.あらかじめみんなをもてなすためにネットで買っておいた,おいしいと評判の紅茶の出番です.でも予想外のことが起きました.
Would you like some tea?
紅茶あるけど飲む?
と聞いたら,「うん」「飲む」 と2人答えた後にイギリス人のヒューだけ
I don’t drink much tea. Do you have any coffee?
僕は紅茶はあまり好きじゃないんだ.コーヒーはある?
と言ってきたのです!
But you’re English
イギリス人なのに!?
と言わんばかりの露骨にびっくりした顔をしていると,ヒューは僕の心を読んでか
There are English people who don’t drink tea, you know.
イギリス人だって紅茶が苦手な人はいるよ
と一言.
日本にいた頃納豆が好きだという外国人に出会うと感心していました.そこまで日本の食文化を知ろうとしてくれているなんて,って.
そんなことを思っていたからか,僕は元々コーヒー派だったのですが,なんとかイギリス文化に溶け込もうと,留学してからは紅茶を飲むようにしていました.外食するときも,なるべくイギリスっぽいものを注文していました.でも正直言うと,僕はイギリスのマーマイトの味は苦手です.バターみたいにパンに塗るビール酵母由来の黒い調味料なのですが,なんというか…塗らなかったほうが絶対おいしかったのに…と悲しい気持ちになります.イギリスの人に特別勧められたわけではないけれど,現地の食を「まずい」と言うのは失礼だと思って,無理して食べていました.これって日本に来る外国人が苦手な納豆を無理して食べるのと同じことですよね.
でもヒューの一言を聞いてはっとしました.そんなにがんばって現地の文化に合わせる必要はないのではないかって.だって自分がなろうとしていたのは,本当は,現地の文化のステレオタイプでしかないのだから.よくよく考えたら,納豆が嫌いな日本人だって大勢いますよね.むしろステレオタイプにピッタリ当てはまる典型的なイギリス人なんて,実際にはいないのかもしれません.それに僕はイギリスでは外国人で,どうがんばってもイギリス人にはなれない.だったら現地の文化のいいところや好きなところだけ取り込めばいいんだ!
とはいえ,現地の文化を一度も試しもせずに食わず嫌いを貫くのは,やっぱり失礼だと思います.食べ物に限らず一度試して苦手だったら,次から断ればいいんです.異文化を受け入れる姿勢を持ちつつも,無理はしないのが大事なんだなって考えたら,なんだか気が楽になりました.マーマイトはもう,食べなくていいんだ.おいしいスコーンだけバクバク食べよう.
また異文化に挑戦しなければならない場面に出くわしたら,
I’ll give it a try.
一回試してみるよ
と言う.そして自分に合わなかったら
It’s a little too interesting for me.
ちょっと僕には難しいかも
と二口目はやんわり断ろう.そんな自分ルールを作りました.
直訳すると「これはちょっと興味深すぎますね」 ですが,実際には慣れない味の食べ物などをやんわり断るときに使えます.