Kyota Ko,Simon Gillett(東京工業大学英語コミュニケーションプログラム 講師/ベルリッツ・ジャパン)
本コンテンツは,実験医学同名コーナーからの転載,2014年11月に発行された単行本「理系英会話アクティブラーニング」シリーズ(発表・懇親会・ラボツアー編,スピーチ・議論・座長編)からのスピンアウトとなります.イギリス留学中のテツヤが実験医学onlineにも登場!
こんにちは,テツヤです.最近,交友関係にちょっとした変化を感じています.
今まではずっと,友好的で親しみやすいヒューとアンジーという同僚とばかり行動をともにしてきました.でも研究室にはもちろん,その他にもいろいろな人が働いています.
たとえば,何に関してもいつも批判的なジューンという同僚がいます.「僕のアイディア,どう思う?」「この実験計画はどう思う?」などと聞こうものなら,肯定と否定の割合が1:100なくらい! 一方で,ハリントン教授にもみんなにも,ジューンは一目置かれています.なぜなら,彼はデキる研究者だから.仕事がほぼ完璧なので,彼に自分の研究を批判されてもぐぅの音も出ない.でも歯に衣着せぬ物言いのせいで,研究室では少し孤立しています.そんな彼と,前より話すようになりました.
この前,夜遅くに実験計画を練っていたとき,天才的なひらめきをしたと思って,興奮状態で紙にわぁーっと書き立てて,その勢いのまま近くで働いていたジューンに声をかけちゃいました.
June, could you take a look at what I came up with?
ジューン,僕のアイディアをちょっと見てくれない?
冷めた表情で紙を手に取ったジューンは,つまらなそうに僕のなぐり書きに目を通しました.そして僕のひらめきは,「全否定」とはこのことかと思うくらいにコテンパンに批判されました.
研究室には僕とジューンしかいなかったので,滝行のように浴びせられる批判をすべて真っ向から聞かされました.有頂天だった数分前から一気に奈落の底に蹴落とされました.でも彼の言葉によく耳を傾けてみると,ジューンが言っていることはすべてもっともな意見ばかり.結局,なんと2時間も説教された形でしたが,自分が考えもしなかった観点から粗をすべて見つけてくれました.
翌朝,ジューンに指摘されたすべてのことを念頭に計画書を改めてつくり,ジューンにメールで送ってみました.…するとすぐに,赤い文字でびっしりと添削されて返ってきました.でもメール文の最後に
I think it’ll work.
これならいけるよ
と一言添えられていました.
後日,ハリントン教授に計画書を見せたところ,珍しくいきなり本質的なディスカッションをすることができました.普段なら根拠の弱さや曖昧な箇所を数点指摘されて,書き直させられるのに.このとき気づきました.ジューンは僕の詰めの甘さを,細かい英語表現に至るまですべて指摘してくれたんです.だから教授に見せる頃にはもう,改善の余地がほとんどなかったんです.今までは仲のいいヒューやアンジーに自分のアイディアを聞いてもらって,「いいねー それはおもしろい考え方だ」って,よい面だけ褒めてもらっていました.
ハリントン教授とディスカッションした日の夕方,勇気を出してジューンにお礼を言いに行きました.
Thanks for going over my plan the other day. It became a whole lot better.
このあいだは計画書を見てくれてありがとう.おかげでずっといいものになったよ
その瞬間,ジューンはこぼれ出そうな照れ笑いを浮かべ,それかき消すかのように,また説教をはじめました.
When you want to get buy-in from people, the first thing you need to do is to bring your idea to a person who would disagree to everything you say.
人に同意を求めたいときにまずしなくてはならないことは自分の考えを全否定してくるような人に案を持っていくことだ
ジューンが言うには,批判的な目をもっている人に話して折り合わない点を洗い出せば,改善の道筋ができるんですって.たしかに,批判を受けるなら初期段階なら傷も浅いし,あとで全部やり直しという事態も防げますよね.
Agreement is not friendship.
同意と友情を混同するな
そう言って,ジューンは逃げるようにお手洗いに行きました.
研究だけじゃなくて,たぶんどんな仕事においても,疑問に思うことははっきり言ってくれる人が本当のパートナーなのではないでしょうか.
ジューンに意見をもらうのは正直,心がしんどいけど,大病の予防接種をするみたいなものだと思ってこれからはありがたく相談させてもらうことにしました.敵だと思っていた人にちょっと勇気を出して話しかけてみたら,ものすごく頼り甲斐のある味方になってくれた.この喜びは実際に体験しないとわからないだろうなーなんて,少し優越感みたいなものを感じています.