「救急外来ドリル」掲載・2025年12月10日公開

皆さん,このような経験はありませんか? ある年の6月,ER業務がはじまった初期研修医1年目の初の当直でのことです.

70歳男性が片麻痺を主訴にERを受診しました.指導医から「ある程度病歴を聞いたら,早めに画像をオーダーして対応しよう」と言われ,初療を研修医が担当することになりました.15分後,指導医がほかの患者の対応を終えて戻ってくるやいなや,「いつまで病歴聞いてるんだ! 早くCT行けよ!(怒)」.

ERの初療は研修医が担当し,後期研修医や専門医などの上級医がバックアップしていることが多いでしょう.忙しいERでは,研修医が多くの患者の初療を担い,対応すべてを自身で行うことも少なくありません.そんななかで,ときには上記のような症例も経験するはずです.
初期研修医1年目のこの時期になれば,高齢男性の片麻痺症例ということから,急性期脳卒中,特に血栓溶解療法や血栓回収療法の適応がある脳梗塞症例を逃さず早期に介入するために,誰もが“Time is Brain!”を合言葉に対応することでしょう.しかし,知識はあっても,どれほど急ぐべきなのか,何をどこまで確認したら頭部CTなどの画像をオーダーするべきかを正確に理解できているとは限りません.
そのような状況のなかで,指導医から,“ある程度”,“早めに”という具体的ではない指示を受けた場合,対応が遅れてしまうことは十分起こりえます.
指導医は「脳卒中の急性期が疑われる患者なのだから,数分で評価し,適切な検査をすぐに行うべき」と考えていますが,この“べき”というのが曲者です.“べき”は人それぞれであって,共通しているとは限らないのです.指導医の考えに対して,はじめての経験であった研修医は,「15分程度で病歴や身体所見を確認してから頭部CTをオーダーすべきだろう」と思っていたかもしれません.

「◯◯ぐらい当たり前」,「普通,この状況であれば~」も“べき”と同様,非常に曖昧な表現です.ERのような,1分1秒を争う場面も少なくない状況において,自身の思いを相手にきちんと伝えるためには,具体的な表現を用いる必要があります.

今回であれば「急性期脳梗塞で血栓溶解療法の適応の可能性もあるから,5分程度で病歴,身体所見を確認して頭部CTをオーダーしよう」と具体的に言えばなんら問題なかったかもしれません.

皆さんも,ERで同僚や看護師などのスタッフに依頼をする機会は多いと思います.その際,この指導医のように,曖昧な表現を用いれば同様のことが起こりかねません.さらに,そこから怒りが生じマネジメントに影響してしまうことは避ける必要があります.

自分を怒らせるものの本当の正体は自分の“べき”かもしれないということを認識し,言葉を適切に選びましょう.

参考文献

1)「アンガーマネジメント入門」(安藤俊介/著),朝日新聞出版,2016


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