「救急外来ドリル」掲載・2025年12月24日公開
胃腸炎は救急外来で数多く経験しますが,それと同時に誤診の代名詞でもあります.胃腸炎だと思ったら心筋梗塞,胃腸炎だと思ったら腸閉塞,胃腸炎だと思ったら異所性妊娠などなど,経験したことがある人もいるかもしれません.胃腸炎を救急外来で診断する際には,① 嘔吐・腹痛・下痢の3症状あり,② 上から下の順に①の症状が出現,③ 摂取してからの時間経過が合致,という3点に注目するとよいでしょう1).実際には病初期に来院するがゆえに,3つの症状が揃っておらず,その場で確定できないことも多いですが,少なくともそのような症例では安易に診断しないこと,他疾患,特に誤診しやすい疾患を頭に入れて対応することが大切です.
嘔気・嘔吐,腹痛,下痢の3症状が順番に認められる場合には,胃腸炎の可能性は高くなりますが,もう1点,③の食事摂取と症状出現までのタイムラグも気にかけましょう.症状を早期に認める黄色ブドウ球菌によるものであっても食後30分以上,通常は数時間のタイムラグがあります.食べている最中から,または食後すぐに症状を認める場合には胃腸炎らしくなく,その場合には何らかの中毒を考える癖をもつとよいでしょう2).
頻度は高くはありませんが,毎年200人程度発生している植物性自然毒をここで頭に入れておきましょう.集団で発生すれば判断は容易ですが,そうではない場合には,鑑別に入れておかなければ診断はなかなかつけられません.誤食しやすい植物の代表的なものは表の通りです.私が勤務している千葉県でも,2019年3月に,ヒガンバナの葉をニラと誤って採取して味噌汁として食べ,嘔気・嘔吐の症状を認めた症例が発生しています3).2023年5月にはタマネギと誤ってスイセンの球根を喫食し,嘔吐,腹痛などの症状を呈した7名が救急搬送される事例が発生しています4).インターネットで「植物性自然毒 (都道府県名)」と検索し,周囲の発生状況を確認しておくとよいでしょう.厚生労働省のリスクプロファイルも一度目を通しておくとよいですよ5).
引用文献
1)坂本 壮:見逃せない救急・見逃さない救急 それって本当に胃腸炎?! プライマリ・ケア:実践誌,4:17-21,2019
2)坂本 壮:誤食により中毒を起こしやすい植物性自然毒.INTENSIVIST,9:765-768,2017
3)千葉県健康福祉部衛生指導課:食中毒の発生について(平成31年3月14日).2019
4)千葉県健康福祉部衛生指導課:有毒植物による食中毒に注意しましょう〔令和6年7月10日〕.2024https://www.pref.chiba.lg.jp/eishi/denshikan/yuusokusyokubutu.html
5)厚生労働省 自然毒のリスクプロファイル:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/poison/index.html
6)厚生労働省 有毒植物による食中毒に注意しましょう:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/yuudoku/