「救急外来ドリル」掲載・2026年1月21日公開
皆さん,このような経験はありませんか? 64歳女性が頭痛を主訴に救急外来を受診しました.そのとき,ERは準夜勤の時間帯で大混雑,急性心筋梗塞や,開放骨折の対応含め,ワチャワチャと四方八方からの怒号に包まれています.そんななかでのwalk-inでの頭痛症例です.バイタルサインは安定し,看護師によるトリアージにおいても,突然発症の病歴や嘔吐などのレッドフラッグサインはありません.救急志望で熱意に満ちあふれた研修医A先生は,開放骨折の患者さんの初療に携わろうと思っていましたが,ERのベテランナースから「先生,その患者さんは人足りてるから,大分待たせてる頭痛の患者さんから先に診て!」と言われました.「待ってもらえばいいじゃないか…」と思いながら,渋々頭痛の患者さんを診ることにしました.
予診票をみると,「血圧が高い」と一言書いてあり,測定した血圧は160/90 mmHgと記載されています.患者さんを診察室に呼び入れ,話を聞くと,「普段の血圧は130 mmHg程度なのに今日は高いのです」ということでした.ほかに症状はなく,どう考えても緊急性はないような状態でした.早くすませたいA先生は,一通りの診察を終えた後に,「数値が高いだけであれば緊急性はありません.ここでやることは特にありませんので,明日以降近くの内科を受診してください!」と伝え,その場を去ろうとしました.すると,「なんなんだ,その態度は! 何かあったらどうするんだ!(怒)」と患者さんの付き添いで来た息子さんが怒鳴り,患者さんも怒り出しました.A先生のイライラは募るばかり…,その後の診療においても,普段では決して起きないはずの画像所見の見落としをしてしまいました.
忙しいERに軽症の患者さんが来院すると,どうしても「なぜこんな時間に」,「日中に受診してよ」,「翌日の外来でいいじゃないか」などと思ってしまいがちです.実際に,日中の仕事を理由に夜間の救急外来を受診する患者さんや,救急車を呼べばすぐに診てもらえる,といった不適切な理由でERを受診する患者さんもいますが,決めつけてはいけません.外傷患者では必ず受傷機転を考えるのと同様に,ERを受診したからには何らかの理由があるはずと考え対応するようにしましょう.この患者さんは,友人が最近くも膜下出血で突然亡くなってしまい,さらに当日「激しい頭痛はくも膜下出血の可能性あり」というTV番組を観て不安になったことが受診理由でした.不安がゆえに受診したのです.そしてその不安に気づいてもらえず,怒りが現れてしまったのです.
ところで皆さんは,感動的な映画やドラマを観た後,人に優しくできたことってありませんか? 「コード・ブルー」や「救命病棟24時」などのドラマを観て,モチベーションが上がったことなどはありませんか? それとは逆に,何か嫌なことがあったり,体調を崩した状態でER業務に従事した場合,不機嫌で無愛想な対応をしがちではないでしょうか.何が言いたいかというと,怒りというのは第二次感情であって,その怒りには何かしらの原因があるということです.本症例においても,A先生は,忙しさや診たいと思っていた症例を診ることができなかった不満という感情が原因で怒りが生じました.そして患者さんとその家族は,不安で,さらに長い時間待たされたうえに,あしらわれるような態度をとられ怒りが生まれてしまったのです.
ER診療をはじめる際,怒りが生まれそうな第一次感情(不安,不満,疲労など)を自身がもっている場合には,まずそれを認識し,なるべく解消してから臨むことが大切です.HALTチェック(表)などを利用し,診療前にコンディションを整えることを心掛けましょう.無論,当直の前日は夜更かししない,飲み過ぎないなどの体調管理は必須です.私は,ER診療前や診療中に疲れが溜まった際や苛立ちを自覚した場合には,一呼吸置き,気持ちを切り替えてから臨むようにしています1).
引用文献