「救急外来ドリル」掲載・2026年7月22日公開
皆さんこのような経験はありませんか? 64歳男性が自宅で卒倒し救急要請となりました.救急隊の現場観察で,左上肢の麻痺,意識障害を認め脳卒中の疑いで搬送となりました.発症時間は明確で,脳梗塞であれば血栓溶解療法の適応症例の可能性があります.さらに脈は不整でモニターでは心房細動らしい…,このような状況であれば,ERでは「ざっと所見とって,頭部CT急げぇ~」となるものです.
脳卒中かな? と思ったら,stroke mimics(脳卒中もどき,表)1)を考える,これもまたERではあたりまえの事項です.しかし,糖尿病治療中でなければ低血糖にはならないから,大動脈解離なんてそんなに多いものではないから,明らかなけいれんはなかったから…など,自身で「脳卒中に違いない」と思っていると,都合のよいように解釈しがちです.本症例では血圧が128/79 mmHgでした.脳卒中による意識障害であれば,通常は血圧は高くなるはずです2).しかし,ここでも強く脳卒中を疑っているがゆえに,血圧が正常にみえるのは降圧薬を内服しているせいだろうと考えてしまったのです.頭部CTから帰室後画像を確認すると,特に異常所見はなく,「次は頭部MRIとMRAを撮ろう」と聞こえてきたとき,心音,血圧の左右差を確認し,心エコーを当ててみると…もうおわかりですね.Stanford A型の大動脈解離でした.
confirmation biasは,自分の仮説に合わない情報は過小評価してしまうというものです.このバイアスは,anchoring biasなどほかのバイアスとも相互に関連します.これだろうと断定したら,つじつまが合わない所見を認めたときには,本来であればリアセスメントする必要がありますが,それを怠りエラーを引き起こしがちなのです.
私はERで患者対応をする際には,“この可能性が高い”と判断しながらも,必ず鑑別すべき疾患を数個想起し対応しています.今回の症例であれば,「脳卒中かも?」と思ったら表の疾患を考え,初療の段階でベッドサイドで施行可能な検査と合わせて評価するようにしています.脳卒中疑い症例以外では,例えば急性冠症候群が疑われ,その根拠がST変化など心電図の異常によるものであった場合には,くも膜下出血ではないか? 尿路感染症や肺炎疑いで紹介を受けた患者さんが意識障害を認める場合には,髄膜炎ではないか? などと考えることを意識しています.症候ごとに鑑別すべき疾患や,ある診断を確定させるときに陥りやすい疾患をそれぞれ整理しておくとエラーを防げるようになります.皆やることは一緒ですから.具体的なイメージが湧かない場合には,本記事とともに「内科救急のオキテ」(医学書院)3)をどうぞ(笑).
また,私は違和感を大切にしています.本来であれば脳卒中患者(特に脳梗塞,脳出血)の血圧は高いことが多いのに対して,正常または低い場合には“まずい”と判断し慎重に対応するのです.血圧が低めの患者さんの心拍数が遅ければ,そこでβ遮断薬〔カルベジロール(アーチストⓇ),プロプラノロール(インデラルⓇ)〕やベラパミル(ワソランⓇ)の影響だろうと判断するよりも,高カリウム血症かもしれない,徐脈性不整脈かもしれない,右冠動脈領域の心筋梗塞かもしれないとまずは考え対応するのです.頻度は薬剤性や反射性失神のことが多いですが,“まずい”疾患から対応するのがERの原則ですから.
常に“考え”,自身が立てたアセスメントに矛盾が生じたら,急ぎながらも立ち止まることが大切なのです.
引用文献
1)「救急外来 ただいま診断中!」(坂本 壮/著),中外医学社,2015
2)Ikeda M, et al:Using vital signs to diagnose impaired consciousness: cross sectional observational study. BMJ, 325:800, 2002(PMID:12376438)
3)「ビビらず当直できる 内科救急のオキテ」(坂本 壮/著),医学書院,2017