「救急外来ドリル」掲載・2026年9月16日公開
皆さん,このような経験はありませんか? 64歳男性が“めまい”を主訴にERを受診しました.この患者さんは,生活保護受給者で一人暮らし,最近毎週のようにERを受診しています.前回のカルテを確認すると,「診察はいいからすぐにMRIを撮影してくれ(怒)」,「前にいろいろ見逃されてこっちは被害者なんだよ(怒)」という発言があったとコメントが残されています.身寄りもなく,毎回帰宅時にはタクシーや警察の介入を要しているという記載もありました.担当することになった研修医B先生は,「ざっと診察をして問題なければ帰宅と判断すればいいだろう…」と思い診察に臨みましたが….
頻回受診する患者,飲酒患者,精神疾患患者,暴言暴力を振るう患者,嘔吐や膿などによって汚染されている患者は,われわれが陰性感情をもってしまう典型的な患者群です.このように,患者さんに対して,陰性または陽性感情をもってしまい,決断に影響を与えることをvisceral bias(本能的バイアス)といいます.救急外来では困った患者さんに出会う頻度が高く,このバイアスに陥りそうな状況は多々あるでしょう.
この症例,おそらく原因は持続性知覚性姿勢誘発めまい(persistent postural perceptual dizziness:PPPD)でした.PPPDは,めまいを診る専門機関では良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal positional vertigo:BPPV)に次いで遭遇する頻度が高く,その多くは何らかの器質的疾患が先行し,不安などによって悪化するものです.診断基準は表の通りですが,覚えておいてもらいたいのは,PPPDをわれわれがつくり上げてしまっているかもしれないということです1,2).
めまいの患者さん,特にBPPVの患者さんを診たことがない研修医の先生はいないでしょう.救急外来での初療に携わっていれば,必ずといってよいほど出会います.その際,きちんと診察し,適切な介入を行っているでしょうか.めまい止めなる薬を点滴に混注しながら様子をみていませんか? BPPVと診断したのであれば,後半規管型がほとんどですから,耳石置換法を可能な限り行い,その場で治療しましょう.そうしなければ,めまいの症状がなかなか改善しないばかりか,患者さんは,“いつまたあのめまいが起こるのだろう”,“CTでは問題ないと言われたけれど,いったい私の病気は何なのだろう”などと不安いっぱいで帰ることになってしまいます.そうなれば,再度症状が出た際には,今回の症例のように頻繁に救急外来を受診したり,暴言を吐いたりする気持ちもわかりますよね.陰性感情をもつ前に,またもってしまいそうになった際には注意しましょう.
こんな経験もあるのではないでしょうか? 70歳男性が自宅で昼から飲酒し,その後トイレに行く際に転倒して救急搬送となりました.アルコール臭著明で,10 /JCSの意識障害を認めますが,その他のバイタルサインは安定していました.担当した研修医C先生は,「お酒のせいでしょうから,点滴して,一応採血出しておくので,結果が出るまで様子をみましょう」とその場を離れましたが….
アルコールに纏わる来院も多いのが救急外来の特徴です.週末の夜や休日,または日中の昼間から飲酒関連の患者さんが運ばれてくると,「くそぉ~,こっちも飲みたいのに…」,「飲んで転倒なんて自業自得…」,「昼間から酒飲むなんて,働け~」と思ってしまうかもしれませんが,仕事をしているわけですから,その辺はぐっとこらえて真摯に対応する必要があります.
この症例では,visceral biasとともに,肉体的・精神的に楽に処理をするように考えてしまうhassle bias(ハッスルバイアス)も関与しているでしょう.忙しく,さらに患者さんに対して陰性感情をもっていれば,とりあえず点滴,とりあえず採血,とりあえずCTのように,気軽にオーダーできるものを実行しながら,その場から可能な限り離れようとするものです.実はこの症例は,くも膜下出血でした.外傷性ではなく動脈瘤破裂に伴うくも膜下出血だったのです.上記2つのバイアス以外にも,CTでくも膜下出血所見が認められても飲酒して転倒しているから外傷性だろうと思い込んでしまう,confirmation biasも関与した症例でした.
飲酒患者の診察はvisceral biasやhassle biasに陥る代表です.意識障害,意識消失,嘔気・嘔吐,外傷などの症例はしばしば出合います.そんなときにはバイアスを振り払って対応する必要があります.難しいことではありません.皆さんの多くもお酒を飲むでしょう.当直明けであれば昼からお酒を飲むこともあるかもしれません.昼間からお酒を飲む,これだけ聞くとアルコール依存なんじゃないかと思ってしまうかもしれませんが,そんなことはもちろんありません.朝が早い漁師や農作業に従事している方にとっての14時は,われわれの19時くらいの感覚でしょうか.また夜勤明けの医師や看護師,救急救命士,さらにはガードマンやタクシー運転手は,夜勤明けの美味しい一杯を堪能していることもあるでしょう.そう考えれば,バイアスなんて簡単にとっ払えます.きちんと病歴を聞いて,身体所見をとって,バイタルサインを評価する(Hi-Phy-Vi)といった,あたりまえのことを実践すればよいだけなのです.
引用文献
1) Popkirov S, et al:Persistent postural-perceptual dizziness (PPPD): a common, characteristic and treatable cause of chronic dizziness. Pract Neurol, 18:5-13, 2018(PMID:29208729)
2) Staab JP, et al:Diagnostic criteria for persistent postural-perceptual dizziness (PPPD): Consensus document of the committee for the Classification of Vestibular Disorders of the Bárány Society. J Vestib Res, 27:191-208, 2017(PMID:29036855)