本症例は,慢性に経過した肺結核症の症例である.
高齢者で,過去に結核の既往があり,2カ月程の緩徐な経過であること,浸潤影が画像上斑状影と粒状影の集合であることから,肺結核症(内因性再燃)を疑う.
胸部単純X線写真 (図1) では両肺に広範な浸潤影を認める.一見広範な肺炎あるいは間質性肺炎と診断しがちであるが,陰影をよく見ると,斑状影や粒状影が集合して浸潤影を形成している.肺結核症が懸念される所見である.低酸素血症もあり入院加療が必要であるが,ここで重要なのは入院前にCTで陰影の特徴のチェック,喀痰検査で排菌の有無のチェックを行うことである.安易に肺炎として一般病室に入院させた後に排菌陽性が判明すると,保健所への報告・接触者健診などを行わねばならず,苦労することになる.喀痰が出ない場合は3%NaClなどで吸入誘発痰の採取を試みるとよい.本症例の胸部CT (図2A,B)では,両肺の気管支周囲に浸潤影を認め,小葉中心性の粒状影や分岐状影を認める(→).肺結核症を強く疑う所見である.喀痰は吸入誘発でも検体が得られず,個室入院とし,医療スタッフにはN95マスク対応を指示した.その後,胃液検査を施行し抗酸菌塗抹陽性(ガフキー3号相当),結核菌PCR陽性と判明,結核専門病院へ転院とした.
肺尖部~上肺野に斑状影や腫瘤影を認め,空洞を伴うなど典型的な画像所見があれば,当然結核症を疑うが,本症例のように一見肺炎様の陰影を呈する場合もときに経験する.高齢,低栄養状態などがあり,慢性の経過である場合は,常に結核症の可能性も念頭においておくとよい.そして画像読影のポイントは,主な陰影の周辺の変化を見るようにすることである.腫瘤状陰影の場合はその周囲に散布性の粒状影がないか,広範な浸潤影の場合は比較的陰影の乏しい周辺部に粒状影がないか,という点に着目すると診断につながりやすい.高熱があり,WBCやCRPが著しく高いからといって結核症を否定するのは危険である.
本症例の画像所見は,慢性細葉性散布肺結核症(岡ⅡB)と分類される.結核の権威である岡 治道は自らがつくり上げた肺結核症X線所見分類(岡氏肺結核病型分類)のなかで,びまん性に播種状に拡がる肺結核症を,ⅡA(粟粒結核症),ⅡB(慢性細葉性散布肺結核症)に分類した.ⅡBは細葉性病変が全肺に拡がる特異な病像で,一見粟粒結核症に似るが,病変はすべて細葉性(気道内)である点が異なる.そのX線像は「肺野に広く細かい病変が散布されたものである.その散布状況は全肺野一様ではなく粗密の差があり,1つ1つの病影も多少大小があり,形も不規則である.典型的には,両側肺にほとんど対称的に,上方は密で下方に行くに従って疎に細葉性病変が散布している」とされる1).その頻度は全肺結核の0.5%といわれる.
近年あまり使われない分類ではあるが,岡ⅡBは結核専門家の間でときに使用される用語であり,知識として知っておくとよい.
クリックして拡大