free airがあるのはわかります.腹痛があれば消化管穿孔を考えたいんですけど,腹部には症状がなくて,咳き込んでるだけなんですか?
良性腸管気腫症という疾患(現象)を考えるにあたり,まず画像所見から簡単に説明しよう.CTでも単純X線写真でも,腹部の画像を見る際に,消化管内腔以外に空気の濃度を認めた場合は異常である.腹腔内遊離ガス(free air)はその名の通り,腹腔内に自由に存在する空気のことであり,正常では認められない「異常所見」である.その頻度も決して低くないため,すでに経験したことがある読者も多いかと思う.
本疾患は,臨床的にはほとんど症状がない,もしくは軽微な腹痛や腹部膨満感などを訴えることが多い.消化管内腔に存在するガス(空気)が何らかの理由で粘膜下,壁内に入り,一部が門脈や腹腔内にも認められる病態と考えられているが,通常,特別な治療介入は必要なく,自然軽快することも多い.危険因子は多岐にわたり,本疾患のような間質性肺炎や慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)や喘息,ステロイド,免疫抑制薬,分子標的薬の使用などが知られる.
画像診断では,先述の通り,胸腹部の単純写真やCTで消化管の内腔ではなく壁内や腹腔内にガスが存在することを契機として気づかれる場合が多い.読影時の1つのテクニックとして,CTでは周囲の脂肪濃度や内腔のガスとの区別のために画像の表示条件(ウインドウレベルやウインドウ幅)を調整し,肺野条件や骨条件に近い条件にするとより見つけやすくなることがある(図3,4).
一般的に消化管壁内のガスは,消化管の虚血による壊死や壁の重篤な感染症を示唆するもので,その原因として絞扼性小腸閉塞や,上腸間膜動脈閉塞症,非閉塞性腸管虚血(non occlusive mesenteric ischemia:NOMI)など致死的な病態を想起するべき「異常所見」である.本疾患ではこのような予後不良の病態と類似した画像を呈するため,臨床現場でそれらの鑑別が問題となることがある.本疾患の頻度が高いことも原因となって,消化管壁内ガスを見ても「ビビらない」初期研修医がいたりもする.本疾患では消化管周囲の脂肪織濃度上昇がないなど,いくつかの鑑別ポイントはあるものの,画像のみでの鑑別は難しいことも多い.あまり画像に引っ張られすぎず,患者の全身状態,症状の強さなどから総合的に病態を考えることが大切である.画像診断は臨床診断学の一部に過ぎない,ということを忘れないでほしい.