右中肺野に浸潤影があります.肺炎でしょうか.
本症例はABPAの症例である.浸潤影の鑑別としては,肺炎,肺癌のほか,悪化する喘息症状やアスペルギルス培養陽性からABPAを想起する.胸部単純CTでは右下葉S8に棍棒状陰影を認め(図2A▶),内部に粘液栓を伴う中枢性気管支拡張と考えられる.その末梢には小葉中心性粒状影(図2A→)があり,気道の炎症性疾患であることが推測される.右中葉は粘液栓により気管支が閉塞し無気肺となっていた (図2A◯).粘液栓は縦隔条件では高吸収(high-attenuation mucus)であった(図2B→).血液検査で末梢血好酸球数1,530 /μL(≧500),総IgE値1,900 IU/mL(≧417),アスペルギルス特異的IgE・IgG抗体が陽性であった.以上の所見からABPAと診断した1).
喘息のコントロール不良時には,喘息の診断が正確であるか,喘息治療が適切に行われているか,合併症の診断と治療が適切に行われているか,増悪因子が回避されているかを評価する2).合併症に関しては,副鼻腔炎,COPD,胃食道逆流症状,ABPAや睡眠時無呼吸症候群といった疾患が喘息の重症化と関連している.これらの評価を確実に行ったうえで,最終的に喘息治療のステップアップを行う.本症例では喘息症状悪化の背景にABPAの合併があり,ABPAの治療が必要と判断した.むやみに喘息治療を強化することなく,コントロール不良の原因を慎重に検索することが重要である.
ABPAは気道内へ定着したアスペルギルスに対するⅠ型およびⅢ型アレルギー反応が主病態であり,好酸球性の粘液栓が形成され,無気肺や好酸球性肺炎,中枢性気管支拡張を引き起こす1).原因菌として,Aspergillus fumigatusが最多だが,ほかの真菌でも同様の病態が惹起されることから,近年はAllergic bronchopulmonary mycosis(ABPM)と呼ばれている.ABPMは成人喘息全体の2.5%に合併し,重症喘息ではその頻度が高いことが知られている2).非可逆的な気道破壊をきたしうるため,早期診断・治療が重要である.治療は,経口ステロイドを中心に,抗真菌薬や抗IgE抗体療法を行う場合もある.真菌に対する環境曝露を回避するため,居住空間の換気,通気,掃除,および湿度や室温の低下に努めるように指導する1).
本症例では外来でステロイド治療を導入し,症状や総IgE値,画像所見などを確認しながらステロイド漸減を行った.本症例のように喘息の既往がありくり返す無気肺や浸潤影を認める場合や,喘息がコントロール不良な場合に,ABPMを想起し見逃さないことが重要といえる.