肺野全体に粒状影やすりガラス影を認めます.間質性肺炎ではないかと思います.
CTではびまん性に小葉中心性粒状影(図2➡)および気管支壁肥厚を(図2▶)認め,何らかの気道炎症が疑われる.びまん性汎細気管支炎が考えられるが,本症例は黒色吐物を認めており,上部消化管出血の関与が疑われる.また以前に食道潰瘍の既往があり,PPIは処方されていたものの通院中断し服用していなかったことが判明した.食道裂孔ヘルニアの存在もあり,食道潰瘍からの出血,その嘔吐,気道内への誤嚥が反復していたものと考えられた.これらより,びまん性誤嚥性細気管支炎と診断された.
誤嚥性肺疾患のなかには,いわゆる肺胞領域の感染である誤嚥性肺炎以外にびまん性の細気管支炎が生じることがあり,1978年に山中らはびまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis:DPB)との対比で誤嚥性DPBとして報告した.その後,1989年に福地らが臨床的,病理学的検討を加えてびまん性誤嚥性細気管支炎(diffuse aspiration brohchiolitis:DAB)と呼ぶことを提唱した1).
DABは少量の食物や口腔内の内容物の気道内への誤嚥が反復することによって起こる慢性炎症性反応と考えられている.DABはその認知度の低さからしばしば見逃されているため,病態や画像の特徴を知っておく必要がある2).胸部単純X線では,両側びまん性に粒状影やすりガラス影を認める.DABの病変分布はDPBと同様で小葉中心性にびまん性に粒状影および分岐索状影がみられ,気管支の壁肥厚もしばしばみられるが,末梢肺の過膨張所見を認めることは少ない1,3).高齢者に発症することが多く,男女差は認めない.誤嚥性肺炎とは対照的に急性発症はなく,比較的大量の吐物の誤嚥例は稀である.咳嗽,喀痰を認めるほかに,乾性ラ音,喘鳴を聴取することが比較的多い1).
DABの治療は誤嚥の防止と気道感染の治療である1).本症例はまずはアンピシリン・スルバクタムの点滴,PPI内服を開始したうえで,食後3時間は臥位にならないなど誤嚥防止の指導を行ったところ,陰影は著明に改善し退院の運びとなった(図3).