画像診断Q&A

レジデントノート 2024年5月号掲載
【解答・解説】1週間持続する発熱・咳嗽・喀痰で来院した大酒家の70歳代男性

ある1年目の研修医の診断

どこに異常があるかわかりにくいですが左中下肺野の濃度がやや高いように思います.発熱と炎症反応上昇があるので肺炎でしょうか.

Answer

左下葉肺化膿症

  • A1:胸部単純X線写真では左中下肺野に淡い濃度上昇を認めるのみである(図1).心左縁は鮮明で,下行大動脈左縁もほぼシルエットを追うことができる.左横隔膜面がわずかに不鮮明である.以上からは下行大動脈からやや離れ,左横隔膜頂部(左下葉S8)にわずかに接する領域の病変の存在が示唆される.左肋骨横隔膜角がわずかにdullで,軽度の胸水貯留を疑う.側面像では椎体に重なる部分に内部に透亮像を伴う腫瘤影を認めた(図2).
  • A2:大酒家,口腔内不衛生,1週間持続する発熱と呼吸器症状などから誤嚥性肺炎や肺化膿症を鑑別にあげ,胸部CT検査の評価を行う.

解説

胸部単純CTでは,左下葉に浸潤影と周囲のすりガラス影,胸水貯留を認めた(図3).造影CTでは造影増強効果を伴う厚い被膜で覆われた低吸収域を認め(図4),内部壊死が疑われた.病歴と併せ左下葉肺化膿症と診断した.

シルエットサイン陽性とは,正常構造に空気が接していない場合その輪郭が消失するという原理である1).水や腫瘍など何らかの含気を妨げる変化が存在することを示す.輪郭が不鮮明になる領域に応じて,心右縁―中葉,心左縁―左舌区,右横隔膜―右下葉,下行大動脈左縁―左下葉というように,病変の区域が推定できる.しかし本例のように正常構造と広く接さない病変では一方向の撮影のみでは病変部位の推定が困難,もしくは見落とす可能性がある.本例では胸部単純X線写真側面像で椎体に重なる濃度上昇を認めた(図2).正面像とあわせ,左S6+S10主体の病変と推定できた.本例は胸部単純X線写真側面像が初期診断に有益であった.

肺化膿症は,細菌感染による化膿性炎症で肺実質が壊死や融解をきたす疾患である2).経気道感染のほか血流感染や,肺癌や食道癌に続発するもの,腹腔内膿瘍などの炎症波及によるものなどがある.膿胸を合併することもある.起因菌は口腔内常在菌や嫌気性菌が多いが,黄色ブドウ球菌や肺炎桿菌,緑膿菌などの肺炎をきたす細菌はいずれも起因菌になる.リスク因子はアルコール多飲歴や糖尿病,歯周病,上部消化管手術歴などである.気管支と交通する場合は壊死組織が排出され空洞をきたすことがある.浸潤影内部に空洞や液面形成を認める場合は肺化膿症を疑う.治療は抗菌薬投与が基本だが,壊死を伴う場合などは治療が長期化する.

本例を振り返ると,アルコール多飲歴や口腔内不衛生などの背景があり,遷延する発熱と呼吸器症状を示し,胸部CTで内部壊死を伴う浸潤影を認めた.痰培養からは口腔内常在菌のStreptococcus intermediusが検出され,アンピシリン/スルバクタム(ABPC/SBT)が奏効した.典型的な肺化膿症の症例であったといえる.胸部単純X線写真正面像では丁寧に読まないと左下葉の病変を見落とす可能性があり,側面像が病変の存在診断に有益であった.

図1
図2
図3
図4
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引用文献

  1. 「胸部X線写真ベスト・テクニック」(齋田幸久/著),pp43-44,医学書院,2013
  2. 「教科書では学べない 胸部画像診断の知恵袋 」(石井晴之,栗原泰之/著),p20,Gakkenメディカル出版事業部,2020

プロフィール

田中三千穂(Michiho Tanaka)
聖路加国際病院 内科専攻医
西村直樹(Naoki Nishimura)
聖路加国際病院 呼吸器センター 呼吸器内科
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