高齢男性の鼠径部のヘルニアなので,頻度を考えると鼠径ヘルニアでしょうか.既往もありますし.
〈その後の経過〉自然に還納され,腹部症状は消失した.待機的に腹腔鏡下ヘルニア修復術を施行し,外鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアと最終診断した.
本症例のように広範囲な拡張腸管を認めた場合,腸閉塞もしくはイレウス(腸管麻痺)が考えられる.両者の鑑別には閉塞点の有無を確認する必要がある.本症例では大腸には拡張がなく,小腸が拡張しているため,閉塞点は小腸であることが推察される.閉塞点のすぐ口側の小腸内には,糞便様の泡沫ガス像内容物(small bowel feces sign)がみられることがあり,閉塞部位の同定に役立つ.
大腿ヘルニアは,大腿輪→大腿管→大腿筋膜脆弱部もしくは伏在裂孔を通って,腹腔臓器が皮下に脱出するヘルニアである.ヘルニア内容は腸管が最多で,大網や卵巣,膀胱なども脱出しうる.中年以降の女性に多く(男:女=1:3),出産や加齢による筋膜組織の脆弱化が主要因とされる.ヘルニア門が小さく周囲組織が強靭で,脱出経路が屈曲しているため,発生頻度は低い(鼠径ヘルニアの1/25~1/50)が,嵌頓する確率が高い(50~85%)1,2).嵌頓の場合,絞扼を伴うことが多いため緊急手術の適応となる.また非嵌頓例でも嵌頓に移行するリスクが高いため,待機的な手術を行うことが推奨される3).
大腿輪は下腹壁動静脈の内側に位置しており,類似の箇所に位置する内側鼠径窩がヘルニア門となる内(直接)鼠径ヘルニアとの鑑別が重要である.男性の場合,腸管が鼠径管を通って陰嚢内へ脱出するか否かで鑑別は容易であるが,女性の場合はしばしば鑑別に苦慮する.鼠径ヘルニアはヘルニア嚢が鼠径靱帯の腹側(体表側)に,大腿ヘルニアは背側(深部側)に位置することが診断の手掛かりとなる.鼠径靱帯は横断像では同定が困難であるが,冠状断もしくは矢状断で多くの場合は同定可能であり,モニター上でスクロールしながら観察することで鼠径靱帯の同定,鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアの鑑別がほぼ可能である4).