[巻頭インタビュー]あの先生に会いたい!番外編1 研修医の在り方、学び方(名郷先生)

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レジデントノートインタビューコーナー『あの先生に会いたい!』では,さまざまなフィールドでご活躍中の先生に,医師として歩んでこられた道のりや,現在,そして将来のこと,さらに私生活とのバランスの取り方などについて語っていただきます.また番外編では,本誌に収まりきらなかった内容をホームページ限定で紹介していきます.

番外編2 エビ固め事件 その1

名郷先生(以下敬称略):地域医療から大学に戻った頃,何だ,「Clinical Epidemiology」ってと思ったのだけど,暇だったし英語の勉強にもなるし,英語の教科書を読むなんてちょっといいかもしれないと思ってわざわざ取り寄せて読んだんだよ.そうしたら,それが非常に面白かった.そこからだね.

 その頃実は,やる気がないとは言いつつ,やはりいろいろな疑問はあって,そのなかの1番大きな疑問が,高齢者の孤立性収縮期高血圧のことだった.「動脈が固くなってるんだから,薬を出したら血圧が下がって,かえって臓器の灌流が悪くなって駄目なんじゃないか」と思ってたのだけど,そういう話をほかの誰かに相談しても「ちょっと軽めにやっとけばいいんじゃない」とか「まあ,適当にやっとけばいいぞ」とか,そんなことしか言われなくて「これはいったいどうなってるのかなあ」なんて思ってたわけ.

 私はそれでもそのときに少しは勉強したんです.そしたら「高齢者の収縮期高血圧は上が170 mmHgを超えたら治療をした方がいいという意見が多い」と書いてあったんだ.「意見が多い」と.こういうことは多数決で決めるようなことではないのに,なんてトンチンカンなこと思って.今は「これはエビデンスがない」ということだよと理解できるけど,当時はそういうこともわからなくて,「えっ,変なこと書いてある教科書だなあ」とか思いながらも,その高齢者の収縮期高血圧に対してはいい加減なことをやっていたのだけど….Sackettの「Clinical Epidemiology」には,Medlineをこう検索して,ランダム化比較試験に絞り込んで,真のアウトカムの論文だけに絞って勉強しなさいと書いてあるわけ.それで,その通りにやってみたら,出てくるわけよ.SHEP研究が.

小林先生(以下敬称略):そこから始まったわけですね.

名郷:そう.2年間の不十分な研修で,へき地に行っていたから自分だけが知らないのではないかと思っていたのに,SHEP研究を読んだら,それは1991年6月に出た論文だったんだ.私がへき地に行ったのは1988年から92年の3月だから,勤務していた時期の大部分は,その論文が出る前のことで,そうすると,その頃は実は誰もわからずにやっていたわけよ.そこで,「これはおいしい」と思った.どう「おいしかったか」というとね,私は「わからない」ということを「わかっていた」.大多数の人はね,「わからない」ということをいい加減にしてやっていた.だから,その分「あっ,いけてる」ということだったと思うのだけど.そこで,こう火がついたんだよね.「自分はここで行けるかもしれない」みたいな.そういう意味では,たまたま,偶然の出会いだよね.

小林:すごく感性が強かったんですね.

名郷:感性なんかそんな強くないと思うよ.ただ,すごく鬱屈したのものがあったよね.卒後3年目からの診療所勤務で,ある意味「もうこれで,俺の一生も終わりか」なみたいな気分だったもん.「うまく行かねえなぁ」「遅れちゃったなぁ」みたいな.

Profile

名郷先生
名郷直樹(Naoki Nago)
東京北社会保険病院臨床研修センター
愛知県の作手村診療所に計12年間勤務した後,へき地医療専門医育成を目標に地域医療振興協会の研修病院で教育を中心とした仕事をしている.

小林先生
小林大輝(Daiki Kobayashi)
聖路加国際病院内科専修医
一見『お堅い先生』かと思いきや,EBM,思想,笑い,どれをとっても超一流を感じました.未収録部分はHPで必見!!

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