[巻頭インタビュー]あの先生に会いたい!番外編1 研修医の在り方、学び方(名郷先生)

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レジデントノートインタビューコーナー『あの先生に会いたい!』では,さまざまなフィールドでご活躍中の先生に,医師として歩んでこられた道のりや,現在,そして将来のこと,さらに私生活とのバランスの取り方などについて語っていただきます.また番外編では,本誌に収まりきらなかった内容をホームページ限定で紹介していきます.

番外編3 エビ固め事件 その2

小林先生(以下敬称略):先生が今,ご自身で力を入れていらっしゃることは,そこから発展していったことだと思います.例えば,勉強方法であったり,医療への還元のしかたであったり,具体的にどのようにされていたのかを教えてください.

名郷先生(以下敬称略):そうですね.順を追って話すと,大学に戻って,そのSackettの「Clinical Epidemiology」を読みながらSHEP研究に出会ったというのが,ちょうど後期研修で自治医科大学に戻った1年目ぐらいだと思うんだけど.それをみつけて,面白いと思って.どういうことに役立つかとか,どうなっていくかというよりは,それ自体が面白くてね,そっちに入っていっちゃったんだよね.それで,その始まりがSackettの「Clinical Epidemiology」だったんだけど,そのSackettがJAMAに連載を始めたという情報を得たわけよ.

 それは読むしかないなと思って,そのJAMAの連載を探して読んだら,Evidence-Based Medicine Working Groupとなっていて,なんか「Evidence-Based Medicine:EBM」と書いてあるわけ.Sackettの「Clinical Epidemiology」ってものすごく読みにくい英語で,なんだかもう大変だったんだけど,そのJAMAのシリーズは英語がすごく簡単になっていて-たぶんSackett自身が書いていなかったということが大きいと思うんだけど-すごい読みやすくなっててさ,それでまたその書き方が,今で言う5つのステップとか,これこれこの手順でやりましょうとわかりやすくなってたんだよ.当時はPECOじゃなくてPEOだったけど.Comparison がなくてPatients Exposure Outcomeだった.

 そうして非常に整理されてその連載が始まってたから,それで面白くなっちゃってさ.少年ジャンプとか読むじゃない.毎週読んでる漫画が「今週休載だ…」とがっくりするときあるでしょ.それで,JAMAのUser’s GuideというそのEvidence-Based Medicineのシリーズは不定期連載だったんだ.その当時,毎週というか結構図書館によく通って,JAMAを引っ張り出しては,今週載ってないかなあみたいなことをやっててさ.載ってないとね,本当にこう,小林まこと『1・2の三四郎』休載か…みたいなね.『1・2の三四郎』とちょうどかぶったね.私は学生時代『1・2の三四郎』をいつも読んでてさ,あれよく休載してたんだよ.それとダブってさ.いつもJAMAを読みながら『1・2の三四郎』を思い出してたんだけど.そんな感じだったね.

 それで私なんかもう一人で盛り上がっちゃって,「みんな1人で診療所へ行ってもこれを身につければなんとかなるぞ.みんなでやろうぜ!」ってなってさ,当時の1年目と2年目のレジデントを引きずり回して「今からこれだけ論文読むんだ!」といったことをやっていて…,まあ誰もついて来なかった.そういうのがスタートだった.だからね,デタラメだったよね.当時は本当にもう好きなことやっていたという感じだった.

小林:すごく好奇心があったわけなんですね,そのわからないことに対して.

名郷:それは好奇心というよりも,ネガティブパワー爆発.診療所の4年間のうっ屈したもののはけ口になった.そのようにしてやっていたらやっぱり面白いから,自分一人で勉強するだけじゃなくて,何かそういう勉強の機会がないかと思って探すとね,Medline検索法とか,システマテイックレビューのやり方のワークショップとかいろいろやっていたのよ.そういうのを探しては参加すると,これがまた面白くて.参加すると,大体,教えてる側よりも,私の方がよく知っているんだ.私はSackettの「Clinical Epidemiology」もJAMAのUser’s Guideも端から端まで読んでいる,それとACP Journal ClubのEditorialというのもあって,それらは,私にとっての三種の神器という感じだったんだけど,そういうのを暇に任せて端から端まで読んでいたから,圧倒的にこっちが知っているんだよ.「これはちょっとおいしいかもしれない」とまた思ってさ.おいしいからやったというところはあるな.

小林:でもすごいですねえ.

名郷:病気だった,そういう意味ではね.そのときはすごく面白かった.もう勉強が止まらないというか,論文読みたくて.熱狂してた.それで,私の教えていた研修医はみんな去って行ったわけだけど(笑).

小林:教えられていても自分の方がよく知っていると.そこから教える側の方にいかれたのですか.

名郷:そうだね.だからそれは教える側という感覚よりも自分がやりたくてしょうがないわけだよね.「これ面白いから一緒にやろうぜ」といった感じだったわけ.まだ私は当時7年目8年目ぐらいで若かったからさ.その1~3年目ぐらいの地域医療の研修医がいたからね.彼らと一緒にやれるのではないかと思ったら,うまくいかなくてさ.大体みんな去って行った.

小林:今だからこそ,僕も含めて研修医のなかには,EBMにすごく興味があって論文も読みたいという人が,たくさんいると思うのですけれど,先生が先に進まれた道というのは,まだ日本では発展途上だったわけですよね.当時の研修医の方々は,そこに対して,ついていって良いのか,という恐れがあったのではないでしょうか.

名郷:まあ,それよりは,私のやり方がでたらめだった,ということだね.私は臨床のdutyを離れて,たまに外来やるぐらいでね,暇だったの.だから,論文を読む時間がものすごくあったわけ.研修医は,患者を受け持ちながらだからね.そういうギャップも,全く自分自身見えてないしね.そりゃまあどんなにいい内容だとしても無理だよね.

小林:時間がないんじゃきついですね.

名郷:それは,自治医科大学の地域医療学教室に,「エビ固め事件」として,語り継がれているんだけど.

Profile

名郷先生
名郷直樹(Naoki Nago)
東京北社会保険病院臨床研修センター
愛知県の作手村診療所に計12年間勤務した後,へき地医療専門医育成を目標に地域医療振興協会の研修病院で教育を中心とした仕事をしている.

小林先生
小林大輝(Daiki Kobayashi)
聖路加国際病院内科専修医
一見『お堅い先生』かと思いきや,EBM,思想,笑い,どれをとっても超一流を感じました.未収録部分はHPで必見!!

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