科学で見る恋愛講座

雑誌『レジデントノート』に掲載された「科学で見る恋愛講座」をWEBでも順次公開してまいります!.

第5回 迎える終局,恋愛が終わるとき

「私たち,もうダメだと思うの…」
恋のはじまりは,素敵な日々がずっと続くと信じていたのに,いつしか気持ちは冷め,会う機会は減り,たまに会えば相手への非難やケンカ….そして一部の人は,別れという悲しい結末を選びます.これは,個人間の相性の問題でしょうか?それとも,多忙な現代社会が生み出した新たな問題でしょうか? 答えは「人類の進化と遺伝子」に隠されていました.今回はちょっと切ない恋愛の終わりを,科学の力で解き明かすことにしましょう.

1 恋愛の賞味期限

いきなり核心となる話に迫ります.現在ラブラブなカップルには申し訳ありませんが,恋愛感情は3年以内で消滅します.ここで言う恋愛感情は,単なる相手への好意ではなく,会いたくてしかたがなかったり,相手のことを考えて物事が手につかなかったりするような,特殊な心理状態です.研究によって差はあるものの,恋愛感情は1~3年以内に消えることが証明されています1).読者の方々も,過去の恋愛経験を思い返せば「3年」という区切りに何らかの心当たりがあるのではないでしょうか.恋愛感情が消えるなんて,誰もが望まないことなのに,なぜ消えてしまうのか? この難解な問いに対して,科学が1つの答えを教えてくれます.

その前に,第1話(2016年4月号)の復習です.なぜ人は恋愛をするのでしょうか? 答えは,二足歩行をはじめた代償として,子どもが未熟で生まれるようになり,その結果,父親の子育てが必要となり,母親と父親をつなぎ止める役割として恋愛感情が発達したのでした.キーワードは「子どもの未熟」です.

結婚や仕事などすべての社会的障壁がないと仮定した場合,人が生物として恋愛をすると,すぐに妊娠に至り,1年後に子どもが生まれます.子どもは1歳頃に二足歩行を習得し,2歳頃には自我が芽生えます.自我をもった幼児は,人のおもちゃを欲しがり(利己的行動),甘いものを好むようになり,一見するとわがままな行動に思えますが,これらは人の生存本能に即した合理的行動です.つまり,子どもが二足歩行をし,自我が芽生えることによって,生き延びる確率は飛躍的に高まります.

さて,以上の話をまとめましょう.恋愛してから1年後に子どもが生まれ,2年後に二足歩行をはじめ,3年後に生存本能を習得.そして「子どもが未熟」なために生まれた恋愛感情.もうおわかりですね.母親と父親をつなぐ恋愛感情は,子どもが成熟するまでの未熟な期間,すなわち3年間の期間限定なのです.子どもが成熟した段階で,父親と母親はパートナーを解消(離婚)し,別の異性と再び恋愛をした方が,遺伝的多様性が生まれ,より適応力の高い子孫が残せます.おそらく結婚という儀式がなかった太古の時代より,何万年もの自然淘汰が作用し,3年以内にパートナーを解消した者たちが,より効率よく子孫を残すことに成功したのでしょう.その成功者の遺伝子が現在のわれわれに受け継がれ,3年という時限タイマーは今も作動したままなのです.恋愛感情が期間限定であるのは,個人の希望ではなく,人類の進化が望んだ結果なのです.

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2 離婚に隠された法則

研修医にとって,離婚は縁のない話かもしれませんが,離婚の法則から,恋愛の終わりに法則を見出すことができます.以前の記録ですが,国連の統計年鑑を使って離婚した年齢層を調べると,男女ともに20歳代の離婚が最も多いことがわかりました2).「後先を考えない若い男女が,勢いで結婚するからでしょ」という厳しい意見もありそうですが,それだけが離婚の原因でしょうか.冷静に考えれば,夫婦が長年連れ添えば相手に飽き,子育てという目標を達成すれば夫婦の存在意義が下がるため,40~50歳代に離婚のピークがある方が自然だと思われます.これに対し科学が導き出した見解は,20歳代に離婚のピークがあるのは,生殖能力が高いからです.先述の恋愛感情が期間限定であるのと同様に,生殖能力が高いうちにほかのパートナーをみつければ,より多様な遺伝子を残すことができるため,そうするように本能が働くというわけです.つまり,この離婚の法則を応用すると,結婚をしていなくても,若いカップルは,生殖能力が高いがゆえに別れやすいと言い換えることができます.

3 失意と有頂天の先に光を求めて

恋愛感情は3年以内に消滅するものであり,また若いカップルは別れようとするのも道理です.それは,食後時間が経てば満腹感が消えることや,長時間眠らなければ睡魔に襲われることと同様に,人間に組込まれた本能であり,逃れるすべはありません.失恋はつらく苦しいものですが,次の恋愛があるからこそ,本能が別れるよう仕向けることをぜひ覚えておいてください.

また研修医の間に結婚を決断することも多いと思いますが,このまま一生幸せという「幻想」や,長年付き合った「惰性」で結婚を決めることもあるでしょう.ですが,少し立ち止まって恋愛の本質を見つめていただき,自分の恋愛を冷静に振り返ることも,大切なことではないでしょうか.たった数年の恋愛感情を基準に,残り50年の人生を賭けたパートナー選びをするのが結婚なのですから.

文献

  1. Marazziti D,et al:Romantic love:The mystery of its biological roots. Clinical Neuropsychiatry,9:14-19,2012
  2. 「愛はなぜ終わるのか-結婚・不倫・離婚の自然史」(ヘレン・フィッシャー,吉田利子/著),草思社,1993
  3. 「女と男のだましあい-ヒトの性行動の進化」(デヴィッド・M・バス/著,狩野秀之/訳),草思社,2000

著者

早渕 修(徳島県立中央病院総合診療科)
じつは,恋愛の終わりというテーマが,私が最も伝えたい内容です.皆さんの過去,現在の恋愛に重ねていただき,じっくり考えていただければ幸いです.そして,すべての失恋者へ私の好きな言葉を贈ります.「他人と過去は,変えられない.自分と未来は,変えられる.」(エリック・バーン)
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坂本 壮/編
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