科学で見る恋愛講座

雑誌『レジデントノート』に掲載された「科学で見る恋愛講座」をWEBでも順次公開してまいります!.

第8回 男女の脳の違い〜進化に導かれし能力~

「彼ってば鈍感すぎ! そのくらい誰だって気づくでしょ?」
「彼女の方向音痴はヤバすぎ.いきなり反対方向に歩き出したんだよ…」
ちょっとした男女のあるある話ですね.このようなやりとりは日本のみならず,世界中でみられます.男女間の違いは,生物としての先天的な性(sex)なのか,それとも人間社会で獲得された後天的な性(gender)なのかをめぐって,20世紀以降,科学者たちの間で論争が繰り広げられました.そして,胎生期後期に性ホルモンの曝露を受けることによって男の脳と女の脳が形成されることが示唆され1),男らしさ・女らしさを規定するものが「脳」と「進化」にあることがわかってきました.
さて,進化が導き出した脳の違いとはいかに?

1 男がもつ空間認知力

見知らぬ土地で地図だけを頼りに移動する場合,女性よりも男性の方が,地図を的確に読み,迷わずに目的地にたどり着く可能性が高いでしょう.どうして男性は地図を読む能力,つまり空間認知力が高いのでしょうか.

時をさかのぼること数百万年前,男は狩猟を生業とする狩猟採集社会でした.男は常に動きまわる獲物を追うため,獲物の動きに合わせてルートを設定することになります.そして獲物の捕獲に成功した後は,外敵に獲物を横取りされないよう安全かつ確実に持ち帰るため,最短ルートで帰宅する必要があります.この場合,男性は上空から地上を見下ろした地図を脳内に描きながら,自宅までの最短ルートを描いていたと考えられます.そして農耕社会へと移行する1万年前までの長い期間,男は脳内の地図を使って狩猟を続け,空間認知力に秀でた脳へと進化したのです.

では,女性は迷わずに移動する能力が低いかといえば,これも間違いです.おもしろいことに,目に映る景色や目印を頼りに移動した場合は,女性は男性よりも確実に目的地にたどり着けることが示されています2).先述の狩猟採集社会において,女は主に木の実や植物の採集を行っていました.採集は「大きな岩山の裏に果実が豊富にある」といった具合に,固定された目標を対象に移動していたため,女は景色や目印を指標に移動する能力を培ったと推測されています.

とはいうものの,多くの女性は苦労とストレスを抱えながら地図を読んでいるのです.もしも男女で旅行をする場合は,男性が率先してエスコートし,車の運転も男性がすることをお勧めします.

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2 女のもつ言語能力 & 非言語能力

女性はおしゃべり…ではなくて,男性よりも言語能力が高いことが知られています.実際に女性の脳の言語野において,ドパミン濃度は男性より高く3),細胞数も男性より12%多いという報告があります4).さらに女性は相手の表情を読みとったり,相手の気持ちに共感したりする非言語的能力にも優れます.これらは子育てにおいて,言葉を扱えない乳児の心情や異変を察知したり,子どもに言語を教育したりするのに役立ち,さらには女性同士の関係強化にも貢献してきたと考えられています.

しかしその能力の高さゆえに,女性ならすぐに気づく言い回しや態度の変化に,男性が気づかないことがよくあります.俗に噂される「男は鈍感だが,女の直感は鋭い」という言葉は,科学的に的を射た表現です.さらに女性の会話は結論がない世間話や噂話が多いのに対し,男性の会話は解決策や結論ありきの実生活に即した話が多いのも特徴です3).女性が話をしていると,いちいち横やりを入れてくる男性がいると思いますが,彼は本能に従って(無用な)解決策を提示してくれているのです.女性の皆さんは,男性の鈍感さに気づいてもあたたかく見守っていただけますよう,空気の読めない男を代表してお願い申し上げます.また男性の皆さんは,女性の話を聞くときは「聞き」に徹するよう努力しましょう…だってほとんどが「聞いてほしいだけ」なんですから.

3 ともに手をたずさえて

男女の脳は「生存」と「繁殖」の2つを目的に,数百万年もの進化を続けてきました.残念ながら,現代社会では生きる意義が生存や繁殖に留まらず多様化しており,男女の脳の違いは時代遅れな能力かもしれません.

しかし以下のような心強い研究結果があります.

米国NASAの研究所で,月面探索にアクシデントを織り交ぜたシミュレーション実験が行われました4).男性のみのチームでは,高い競争心がゆえに探索能力は高かったものの人命救助が手薄になりました.一方,女性のみのチームだと互いを気遣いすぎるがために探索が進まなかったのです.最も効率よく探索ができたのは男女混成チームで,探索と安全を両立することができたのです.

現実社会でも,男女の脳の違いを理解し合い,互いに協力し合うことで,最高の男女混成チームをつくることができるのかもしれませんね.

文献

  1. 「性と愛の脳科学 新たな愛の物語」(ラリー・ヤング, ブライアン・アレグザンダー/著, 坪子理美/訳),中央公論新社, 2015
  2. Saucier DM, et al:Are sex differences in navigation caused by sexually dimorphic strategies or by differences in the ability to use the strategies? Behav Neurosci, 116:403-410, 2002
  3. 「すぐ忘れる男 決して忘れない女」(マリアン・レガト/著, 下村満子/監訳, 山田睦子/訳),朝日新聞社, 2007
  4. 「だから、男と女はすれ違う 〜最新科学が解き明かす「性」の謎〜」(奥村康一, 他/著),ダイヤモンド社, 2009

著者

早渕 修(徳島県立中央病院総合診療科)
四国の端っこの内科医です.総合診療,感染症,小児科にも興味津々です.内科をこなしながらも育児休暇を2回も取得(←資格とちゃうんかい).趣味は恋愛ではなく,ランニングです.健全な奴と思われるかもしれませんが,有酸素運動理論を自分の体で実践しすぎて,スポーツ貧血を発症(なんとフェリチン8).今最も熱いのは研修医教育です!!
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藪田 実/編
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