総合診療はおもしろい!

地域で「健康的な終末期」を支える
大石 愛(Centre for Population Health Sciences, The University of Edinburgh)

地域における高齢者の終末期ケアを担うことは,日本の総合診療医に期待されている役割の1つである.私は家庭医療専門研修の後に,緩和ケアの修士課程を経て,現在博士課程でこのテーマについて考えている.総合診療医が地域で「健康的な終末期」を支えるためにできることは何か,考えてみたい.

健康とはどのような状態か

健康とは,と尋ねられ,「健康とは,病気でないとか,弱っていないということではなく,肉体的にも,精神的にも,そして社会的にも,すべてが満たされた状態にあること」というWHOの定義を思い浮かべる人は多いだろう.

肉体的でない側面も考慮したという意味で,この定義は画期的であったと思われる.しかし,この健康の定義が当てはまりそうな人はどれだけいるだろうか.私自身,片頭痛もちで乱視があるし,「すべてが満たされた状態」とは言い難い.真面目に高齢者のことを考えてみても,さまざまな機能が弱っていくなかで,この健康の定義を満たしながら老いていくことは難しそうである.

「健康的な終末期」とは

死は健康の対極にあると考えることもできるが,人間はみないつか死を迎えるという意味ではきわめて正常な現象である.特に高齢者の健康を考えるうえでは,終末期をどのように迎えるかを話し合うことは避けては通れない.最近の「終活」ブームには,さまざまな背景がありそうではあるが,終末期についてオープンに話し合える雰囲気の後押しになるという意味では歓迎すべきことだろう.

一方,WHOや欧米の研究機関によるhealthy ageing関連の報告書には,いわゆる疾病や要介護状態の予防に終始したものが多く,終末期をどのように迎えるべきかについての言及はきわめて少ない.終活ブームは日本独特の現象であり,歴史的に見ても,日本の方が「死」は社会に身近な場所にあり,「健康的な終末期」を考える土壌もあるといえるのである.

地域で「健康的な終末期」を支えるには

「地域の健康を支える」ことも総合診療医の仕事である.Jadadらは,「健康的な終末期」も実現可能なはずであるという考えのもと,BMJのblog上での議論を経て「健康とは,肉体的・精神的・社会的な困難に適応し,セルフマネジメントを可能とする個人またはコミュニティの能力である」という定義を提案した.これは何らかの公的な文書で示されたものではなく,1つの提案ではあるが,この定義に沿うと地域で「健康的な終末期」を支えることも可能であることになる.そのためには,個人およびコミュニティレベルにおける適応力やセルフマネジメント力の涵養が必要であり,それにはケア従事者間の連携だけではなく,地域における人と人のつながりなどのソーシャルキャピタルの充実を図る,などの新しいpublic healthの考え方を応用することになるのではないだろうか.そして,それが総合診療ならではの地域の看取りへのアプローチになるのではないだろうか.

実はすでに関連したさまざまな取り組みはされており,さらに充実した議論が望まれる.総合診療が「ゆりかごから墓場まで」地域の健康を支えるためにできることを考えていきたい.

※ 原文は,‘Health is the capacity of an individual or community to adapt and self manage in the face of physical, mental and social challenges.’

参考資料

  1. Public Health and Palliative Care International
  2. Kellehear A:Health Promoting Palliative Care p.191, Oxford University Press, 1999
  3. Kellehear A:Compassionate Cities p.192, Routledge, 2005
  4. Chan MMH, et al : Community initiatives foster health-promoting palliative care in Singapore. European Journal of Palliative Care, 21(1):27-29, 2014
  5. Barry V & Patel M:An Overview of Compassionate Communities in England. 2013:
  6. Public Health Approaches to End of Life Care:A toolkit. The National Council for Palliative Care, Public Health England, & Middlesex University London.
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仲里信彦/編
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