総合診療はおもしろい!

キャリアとしての医学教育
春田淳志(筑波大学附属病院 総合診療グループ)

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私は総合診療医として病院や診療所で研修・勤務するなかで,医学教育に興味をもち,東京大学医学教育国際研究センターの医学教育学の博士課程に入学し,2015年3月に卒業した.このキャリアのなかで医学教育を学ぶことが自分にとってどのような影響があったのかを振り返る.

医学教育の経験

私は2006年に後期研修としてはじめて初期研修医の指導に携わり,2009年からチーフレジデントとして初期から後期研修医全体の指導だけでなく,病棟スタッフ(多職種)のマネジメントや看護教育のアドバイザーとしてかかわるようになった.2010年には病棟医長と医学教育フェローシップという2足のわらじで,チーフレジデント時に学んだリーダーシップやマネジメントを活かし,地域住民を巻き込んだ健康教室のプログラムを開発し,研修医のメンタリング,研修医OSCE,初期研修カリキュラムの開発,病院・診療所を巻き込んだ緩和ケアチームの運営などを行った.これらの経験からさらに教育の理論的枠組みを深く学びたいと思い,2011年4月に東京大学医学教育国際研究センターの博士課程に入学した.そこで,共用試験OSCE運営委員やPBLチューターなどで学部生の教育,後期研修プログラムの開発と評価,多職種連携教育,テストの開発などにかかわり,卒前から卒後,生涯教育の在り方を学んだ.

この経験から,「学習者が自分の成長を実感でき,自分自身の学びに貢献できるように教育者側が個人や環境作りのサポートをすることで,その学習者がチームや組織にいい影響を与えること」をどの段階の学習者においても実感するようになった.

省察を通して感じた自分の役割

総合診療医はその場の患者さんや家族を理解すること,多職種を理解すること,地域を理解することに関心がある.その関心は,いまだ学問として十分に体系化されていない.

総合診療は未分化で不確実性な事象を扱うことが多い.だからこそ,経験を自分や他者の言葉で紡ぎ,自分の前提やもやもやとして言葉にできない暗黙知を言語化する実践者である必要がある.この行為は省察(reflection)とよばれる.しかし,省察を10分でやろうとか,マニュアルをつくろうとかいうところに学習者と教育者の理解の不一致が生じる.教育学というフレームから私が学んだ省察は,枠に当てはめて自分の経験を理解することではない.相手が経験し理解したことを,誰かと言葉のやりとりをすることで顕在化し,もやもやとした何かを言葉にしていく作業である.私は医学教育を学び,学びの概念が大きく変わった.そのおかげで,地に足をつけて,自分の役割を主体的に模索しながら,そこにいる人や環境に働きかけることができるようになったと振り返る.また,大学(アカデミズム)の人間として,臨床や教育を省察し,現場を科学し,学問体系をつくり上げるところに大学における自分の役割があると実感できるようになった.

私が医学教育で興味をもったのは「省察」である.しかし,皆さんがおもしろい!と感じる部分は違うかもしれないし,それでいいと思う.一人でも多くの医師が教育にかかわり,自分も他者も学べる機会をつくれれば,医師としての人生は楽しくなるんじゃないかと思う.

文献

  • 1) 「省察的実践とは何か―プロフェッショナルの行為と思考」(Donald A. Schön/原著, 柳沢昌一,三輪建二/訳),鳳書房,2007
はじめから終わりまで,それぞれの経過に合った輸液ができる!

レジデントノート増刊 Vol.26 No.2
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寺下真帆/編